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タイトル 一つの世界 ―私信―
Title Hitotsu no sekai: Shishin
筆者 伊丹万作
author Itami Mansaku
年/year 1964
出典 「現代日本思想大系 14 芸術の思想」筑摩書房
source Gendau Nihon shisoo taikei 14 Geijutsu no shisoo Chikuma Shoboo
genre essay
subcorpus Aozora Bunko


 1君 の 手紙 と 東京 から 帰っ た 会社 の 人 の 報告 で 東京 の 惨状 は ほぼ 想像 が つく 。
 2要するに 「 空襲 恐るる に 足ら ず 」 といった 粗大 な 指導方針 が 事 を ここ に 至ら しめ た の だろう 。
 3敵 が 頭 の 上 に 来 たら 日本 の 場合 防空 は あり 得 ない 、 防空 と は 敵 を 洋上 に 迎え撃つ こと 以外 に は ない と ぼく は 以前 から 信じ て い た が まちがっ て い なかっ た 。
 4しかるに いまだ 空襲 の 被害 を 過少評価 し よう と する 傾向 が ある の は 嘆かわしい こと だ 。
 5この 認識 が 是正 せ られ ない かぎり 日本 は 危し と いわ ね ば なら ぬ 。
 6幾百万 の 精兵 を 擁し て い て も 戦力源 が 焼か れ 破壊 さ れ て しまっ たら 兵力 が 兵力 に なら ぬ 。
 7空襲 で ほろび た 国 は ない という の は 前大戦時代 の 古い 戦争学 だ と 思う 。
 8ことに 日本 の よう な 木造家屋 の 場合 この 定理 は 通用 せ ぬ 。
 9敵 は 近来 白昼 ゆうゆう と 南方洋上 に 集結 し 編隊 を 組み 、 一 時間 も 経過 し て 侵入 し て くる が 、 ずいぶん みくびっ た やり方 だ と 思う 。
 10どうせ 都市上空 で 迎え撃つ もの なら 、 なぜ 事前 に 一 機 でも 墜し て くれ ない の だろう 。
 11たとえ 一 トン の 爆弾 でも 無効 に なる で は ない か 。
 12都市 を 守る 飛行機 が 一 機 でも ある なら 、 なぜ それ を 侵入径路 へ ふり向け ない の だろう 。
 13どう も わから ぬ こと が 歯がゆい 。
 14ぼく は 近ごろ 世界 の 動き という もの が 少し わかっ て き た よう な 気 が する 。
 15日本 が この 戦争 で 勝っ て も 負け て も 世界 の 動き は ほとんど 変ら ない と 思う 。
 16それ は おそかれ早かれ 共産国 と 民主国 と の 戦争 に なる から だ 。
 17その とき 日本 が もし 健在 ならば 、 いや で も おう で も どちら か に つか ね ば なら ぬ よう に さ れる だろう 。
 18自分 は どちら でも ない という こと は 許さ れ ない 。
 19もし そんな こと を いっ て い たら 両方 から 攻め られ て 分断 さ れ なけれ ば なら ない 。
 20それ を 避け よう と 思え ば 国論 を いずれ か 一方 に 統一 し て 態度 を きめ なけれ ば なら ぬ 。
 21その ため に は あるいは 国内戦争 が もちあがる か も わから ぬ 。
 22要するに この 戦争 で 飛行機 の 性能 と 破壊力 が 頂点 に 達し た ため 、 地球 の 距離 が 百分の一 に 短縮 さ れ 、 短日月 に 大作戦 が 可能 に なっ た 。
 23それで 地球上 の 統一 という こと が ずっと 容易 に なっ た の だ 。
 24その かわり 、 現在 の 日本 くらい の 程度 の 生産力 で は 真 の 意味 の 独立 が 困難 に なっ て き た の だ 。
 25現在 すでに 真 の 独立国 は 英 ・ 米 ・ ソ 三 国 に すぎ なく なっ て いる 。
 26他 の 独立国 は 実は 名 のみ で 三 つ の うち いずれ か の 国 に すがら ない かぎり 生き て 行け なく なっ て いる 。
 27これ は 大資本 の 会社 が どしどし 小資本 の 会社 を 吸収 する よう な もの で 、 現在 の 戦争 は よほど の 大生産力 が なけれ ば やっ て 行け ない 。
 28したがって 小資本 の 国 は 独力 で 戦争 が でき なく なり 、 自然 大資本国 に 吸収 さ れる わけ だ 。
 29さて 民主国 と 共産国 と いずれ が 勝つ か は なかなか わから ない が 、 ぼく の 想像 で は 結局 いつ か は 共産国 が 勝つ の で は ない か と 思う 。
 30その わけ は 同じ 戦力 と すれ ば 一方 は 思想戦 で 勝ち味 が ある だけ 強い わけ だ 。
 31こうして 一 つ の 勢力 に 統一 さ れれ ば それ で とにかく 一応 戦争 の ない 世界 が 実現 する わけ だ 。
 32しかし 永久 に という の で は ない 。
 33別 の 大勢力 が 生れ て ふたたび これ を ひっくりかえす とき に は また 戦争 が ある 。
 34しかし 次 に ひっくりかえす やつ は さらに 新しい 思想 を 持っ て い なけれ ば なら ぬ から 、 それ まで に は 非常 に 長い 経過 が 必要 に なる わけ だ 。
 35現在 まで の ところ 共産主義 に 対抗 する だけ の 力 を 持っ た 思想 は 生れ て い ない し 、 これ から 生れる と し て も それ が 成長 し 熟する まで に は すくなくとも 百 年 くらい かかる だろう から 、 一 度 統一 さ れ た 世界 で は そう ちょいちょい 戦争 は 起ら ない もの と 考え て よい 。
 36まあ この 夢物語り は ここ で おしまい だ が これ が 何十年 先 で 当る か 、 案外 近く 実現 する か 、 おなぐさみ という ところ だ 。
 37昭和 二十 年 三 月 十六 日