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title:The Sisters (Shimai)
author:Joyce, James --coderati (trans.)
date:2006
source:Open-shelf (http://open-shelf.appspot.com/Dubliners/chapter1.html)
genre:fiction
subcorpus:Open-shelf
terms of use:Public domain

 1
 2今度 は 彼 に 望み は なかっ た 。
 3三 度目 の 発作 だっ た の だ 。
 4夜 毎 僕 は その 家 を 通り過ぎ ( 休暇期間 だっ た ) 、 明かり の つい た 四角い 窓 を 注意深く 見 た 。
 5そして 夜 毎 僕 は 、 同じ よう に ほのか に そして 一様 に そこ に 明かり が つい て いる の を 見つけ た 。
 6もし 彼 が 死ん だら 、 と 僕 は 考え た 、
 7暗く なっ た ブラインド に 映る ろうそく が 見える はず だ 、
 8だって 死骸 の 枕元 に は ろうそく を 二 つ 置か なけれ ば なら ない こと を 僕 は 知っ て い た 。
 9彼 は たびたび 僕 に 「 私 は もう 長く は ない 」 と 言い 、 僕 は それ を 戯言 と 思っ て い た 。
 10今 に なっ て 僕 は それ が 本当 だ と わかっ た 。
 11毎夜 僕 は じっと あの 窓 を 見上げ て は 一人 そっと 麻痺 という 言葉 を つぶやい た 。
 12僕 の 耳 に は いつも それ が ユークリッド の ノーモン という 言葉 や 教理問答 の シモニー という 言葉 の よう に 不思議 な 響き を 与え た 。
 13しかし 今 、 それ が 僕 に は 悪さ を する 罪深い 存在 の 名前 の よう に 聞こえ た 。
 14それ は 僕 を 恐怖 で 満たし た が 、 それでも 僕 は より 近く に い て その 致命的 な 作用 を 見 たい と 思っ た 。
 15僕 が 夕食 の ため 階下 に 下り た 時 、 コター の じいさん は 火 の そば に 座り 、 タバコ を 吸っ て い た 。
 16叔母 が 僕 の かゆ を すくっ て いる と 、 彼 は 前 の 話 に 戻る か の よう に 意見 を 言っ た 。
 17「 いや 、 わし は 必ずしも あの 人 が ・・・ と 言い は し ない が ちょっと おかしな こと が ・・・ あの 人 に は ちょっと 薄気味悪い ところ が あっ た な 。
 18それでなあ わし の 考え で は ・・・ 」
 19彼 は おそらく 頭 の 中 で 考え を 整理 し て いる の だろう 、
 20パイプ を プップ ッと 吹かし 始め た 。
 21うんざり だ よ ばかじじい !
 22知り合い と なっ た 初め の 頃 に は 彼 も フェインツ や ワーム の 話 を し たり し て なかなか おもしろかっ た もの だ 。
 23が 、 僕 は すぐ に 彼 と 彼 の 蒸留所 に関する 果てしない 話 に 飽き飽き し て き た 。
 24「 わし に は それ について の 持論 が ある 」 と 彼 は 言っ た 。
 25「 思う に それ は あの ・・・ 異常 な 症例 の 一 つ で ・・・ しかし 言い にくい こと だ が ・・・ 」
 26彼 は 持論 を 僕たち に 教える こと なく 再び パイプ を プップッ と 吹かし 始め た 。
 27叔父 が じっと 見 て いる 僕 を 見 て 言っ た 。
 28「 まあ 、 そういう わけ で お前 の 年老い た 友達 が 死ん で 、 お前 も 聞い て 残念 だろう 。 」
 29「 誰 ? 」 と 僕 は 言っ た 。
 30「 フリン神父 だ 。 」
 31「 死ん だ の ? 」
 32「 今 コターさん が ちょうど 話し て い た ところ だ 。
 33家 の そば を 通りかかっ た そう だ 。 」
 34僕 は 観察 さ れ て いる の が わかっ て い た ので その 知らせ に 興味 が ない か の よう に 食べ 続け た 。
 35叔父 は コター の じいさん に 説明 し た 。
 36「 この 子 と あの 人 は えらく 仲 が 良かっ た ん です よ 。
 37老人 は これ に えらく たくさん の こと を 教え 、 それでねえ 、 あの 人 は この 子 に えらく 期待 を かけ て い た そう だ が 。 」
 38「 あの 人 の 魂 に お慈悲 を 」 と 叔母 が 信心深く 言っ た 。
 39コター の じいさん は しばらく 僕 を 見 て い た 。
 40僕 は 彼 の ビーズ の よう に 小さな 黒い 目 が 僕 を 吟味 し て いる の を 感じ た が 、 皿 から 目 を 上げ て 彼 を 満足 さ せる こと は し なかっ た 。
 41彼 は パイプ に 戻り 、 最後 に 炉格子 の 中 へ 無作法 に つば を 吐い た 。
 42「 わし なら 自分 の 子供たち に は 、 」
 43彼 は 言っ た 、
 44「 あまり あの よう な 人 と 話 を さ せ たく ない ね 。 」
 45「 どういう 意味 です の 、 コターさん ? 」 と 叔母 は 尋ね た 。
 46「 どんな 意味 か って 、 」
 47コター の じいさん は 言っ た 、
 48「 子供 に よく ない って こと だ 。
 49わし の 考え は だね 、 若い もん は 同じ 年頃 の 若い もん と 走りまわっ たり 遊ん だり さ せる 、
 50で 、 決して ・・・
 51そう だろ 、 ジャック ? 」
 52「 私 も そういう 主義 だ な 」 と 叔父 は 言っ た 。
 53「 自分 の 陣地 で 戦う こと を 学ば せる こと 。 そこ の ロージクルーシャン に いつも 言っ て いる ん だ 。 運動 を しろ と 。 なに 、 この 私 も がき の 頃 に は 毎朝 、 夏 も 冬 も 冷水浴 を し た もの だ 。 そして それ が 今 も 私 の 役 に 立っ て いる 。 教育 は まこと に 結構 この上ない が ・・・ コターさん は あの 羊 の 脚肉 を つつく ん じゃ ない かな 」 と 彼 は 叔母 に 付け加え た 。
 54「 いや 、 いや 、 私 は 結構 」 と コター の じいさん は 言っ た 。
 55叔母 は 戸棚 から その 皿 を 持っ て き て テーブル の 上 に 置い た 。
 56「 でも どうして それ が 子供 に よく ない と お考え です の 、 コターさん ? 」 と 彼女 は 尋ね た 。
 57「 子供 に よく ない の は 、 」
 58コター の じいさん は 言っ た 、
 59「 彼ら の 心 は とても 感じ やすい から だ 。
 60子供 が あんな もの を 見 たら 、 なあ 、 それ が 影響 し て ・・・ 」
 61僕 は 怒り を ぶちまけ て しまう の を 恐れ て かゆ を 口 に 詰め込ん だ 。
 62うんざり だ よ 年寄り の 赤鼻 の 大ばか が !
 63僕 が 寝入っ た の は 遅く なっ て から だっ た 。
 64僕 は 僕 を 子供 だ と ほのめかし た コター の じいさん に 腹 を 立て て い た けれども 、 彼 が 言い 終え なかっ た センテンス から 意味 を 引き出そ う と 頭 を 悩まし て い た 。
 65部屋 の 闇 の 中 で 僕 は 今 また 麻痺 し た 人 の 重たい 灰色 の 顔 を 見 た よう に 思っ た 。
 66僕 は 頭 まで 毛布 を 引き上げ 、 クリスマス の こと を 考え よう と し た 。
 67しかし 灰色 の 顔 は なお も 僕 に つきまとっ て き た 。
 68それ は ぶつぶつ 言い 、 それで 僕 は それ が 何 か を 告白 し た がっ て いる の が わかっ た 。
 69僕 は 魂 が 心地よい 堕落 し た 領域 の 中 に 後退 し て いく の を 感じ た 。
 70そして そこ で また 僕 を 待っ て いる それ を 見つけ た 。
 71それ は ささやく よう な 声 で 告白 を 始め た が 、 僕 は どうして それ が 頻繁 に 微笑む の だろう 、 どうして その 唇 は そんな に つば で 濡れ て いる の だろう と 思っ た 。
 72しかし その 時 僕 は それ が 麻痺 で 死ん だ こと を 思い出し 、 自分 も また 聖職売買 を する 彼 の 罪 を 許す か の よう に 弱々しく 微笑ん で いる の を 感じ た 。
 73翌朝 、 食事 の 後 、 僕 は グレートブリテン・ストリート まで 小さな 家 を 見 に 行っ た 。
 74それ は 『 服屋 』 という あいまい な 名 で 登記 さ れ た 気取ら ない 店 だっ た 。
 75その 服屋 は 主 に 子供 の ブーティ と 傘 から なり 、 そして 普段 は ショーウィンドウ に ビラ が ぶら下がり 、 『 傘張り替え 』 と 書い て あっ た 。
 76今 は シャッター が 閉まり 何 の ビラ も 見え なかっ た 。
 77黒い クレープ の 喪章 を 巻い た 花束 が ドアノッカー に リボン で 結びつけ られ て い た 。
 78二人 の 貧しい 婦人 と 電報配達 の ボーイ が 喪章 に 留め られ た カード を 読ん で い た 。
 79僕 も 近づい て 読ん だ 。
 801895 年 七 月 一日
 81ジェイムズ・フリン師 ( ミース・ストリート 、 聖キャサリン教会 の 元 司祭 ) 、 六十五 歳 。
 82ここ に 眠る 。
 83カード を 読ん で 、 僕 は 彼 が 死ん だ と 納得 し 、 入れ ない と 知っ て 動揺 し た 。
 84彼 が 死ん で しまっ た の で なかっ たら 僕 は 店 の 後ろ の 暗い 小さな 部屋 に 入り 、 大外套 で 窒息 し そう に なっ て 火 の そば の ひじかけ椅子 に 座っ て いる 彼 を 見つけ た だろう 。
 85たぶん 叔母 は 彼 の ため の ハイトースト の 小箱 を 僕 に 持た せ た だろう し 、 この 土産 は うとうと し て ぼうっと し て いる 彼 を 目覚め させ た だろう 。
 86この 小箱 から 彼 の 黒 の 嗅ぎタバコ入れ に 空す の は いつも 僕 で 、 というのも 彼 は 手 が ひどく 震え て 、 彼 に さ せ たら 嗅ぎタバコ の 半分 も 床 の あちこち に こぼさ ずに は すま ない から だ 。
 87彼 が 大きな 震える 手 を 鼻 まで 持ち上げる 時 に は 指 の 間 から 漏れ た もくもく と し た 小さな 粉煙 が コート の 胸 に 散っ た 。
 88彼 の 古い 聖職者 の 衣服 に 緑 の あせ た よう な 外観 を 与え た の は 絶え間なく ふりそそぐ 嗅ぎタバコ だっ た かも しれ ない 。
 89というのも いつも の こと ながら 一 週間 分 の タバコ の しみ が つい て 黒く なっ た 赤い ハンカチ で 落ち た 粒 を 払いのけ よう と し て も まったく 効果 が なかっ た から だ 。
 90僕 は 中 に 入っ て 彼 を 見 たかっ た が ノック する 勇気 が なかっ た 。
 91僕 は 通り の 日当たり の いい 側 を 通っ て 、 店々 の ウィンドウ の 劇的 な 広告 を 残らず 読み ながら ゆっくり と 歩い て 離れ た 。
 92僕 が 奇妙 に 感じ た の は 僕 にしても その 日 という 日 にしても 喪 の 気分 に ない らしい こと で 、 彼 の 死 により 何 か から 自由 に なっ た か の よう な 解放感 に 内心 気づい て 僕 は 苛立ち すら 覚え た 。
 93叔父 が 前夜 言っ た よう に 彼 は 僕 に えらく たくさん の こと を 教え て くれ た の だ から 、 僕 は これ を 不思議 に 思っ た 。
 94彼 は ローマ の アイルランド人 の カレッジ で 勉強 し 、 僕 に 正確 な ラテン語 の 発音 を 教え た 。
 95彼 は 僕 に カタコンベ について 、 そして ナポレオン・ボナパルト について 話 を し たり 、 さまざま な ミサ の 儀式 や さまざま な 聖職者 の 着る 式服 の 意味 を 説明 し たり し た 。
 96時々 彼 は 、 ある 状況 で 人 は 何 を す べき か 、 とか これこれ の 罪 は 大罪 か 小罪 か 単なる 欠点 か と 尋ねる など 、 難しい 質問 を 僕 に し て おもしろがっ た 。
 97彼 の 質問 は 、 僕 が いつも 最も 単純 な 決まり と みなし て い た 教会 の 制度 が いかに 複雑 で 神秘的 か を 示し て い た 。
 98聖体 に対する 、 そして 告解 の 秘密 に対する 聖職者 の 義務 が 僕 に は とても 重大 な もの に 思え 、 誰 にしろ いったい どうして それ を 引き受ける 勇気 を わが 身 に 見出し た の だろう と 思っ た 。
 99そして 教会 の 神父たち が 郵便局 の 住所録 の よう に 厚く 、 新聞 の 訴訟告知 の よう に びっしり 活字 の 詰まっ た 、 これら の 難解 な 問題 を 明らか に する 本 を 書い た の だ と 彼 が 言っ た 時 も 僕 は 驚か なかっ た 。
 100それ を 考える と しばしば 僕 は 答え られ なく なっ たり 非常 に ばかげ た もたつい た 答え しか でき なかっ たり し た が 、 それ に対して 彼 は いつも 笑い 、 二三 度 うなずい た もの だ 。
 101彼 は 時々 僕 に 暗記 さ せ た ミサ の 応答文 の 試験 を し た もの だ 。
 102そして 、 僕 が 機械的 に 唱える と 、 彼 は 物思わしげ に 笑い 、 うなずい て 、 時 に は 嗅ぎタバコ を たっぷり つまん で 左右 の 鼻孔 に かわるがわる 押し込ん だ もの だ 。
 103彼 は 笑う 時 、 大きな 変色 し た 歯 を あらわ に し 、 下唇 の 上 に 舌 を のせ た もの だ
 104−− 知り合っ た 初め の 頃 、 彼 を よく 知る 前 に は その 癖 が 僕 に 不安 を 感じ させ た 。
 105陽射し の 中 を 歩き ながら 僕 は コター の じいさん の 言葉 を 思い出し 、 その 後 の 夢 の 中 で 起こっ た こと を 思い出そ う と し た 。
 106僕 が 思い出し た の は ベルベット の 長い カーテン と 揺れる 古風 な ランプ に 目 を 留め た こと だっ た 。
 107僕 は 非常 に 遠く 、 どこ か 不思議 な 風習 の 国 に 来 て いる と 感じ た −−
 108ペルシャ に 、 と 思っ た ・・・
 109しかし 夢 の 結末 は 思い出せ なかっ た 。
 110夕方 叔母 は 僕 を 連れ て 喪中 の 家 を 訪れ た 。
 111日没 の 後 だっ た 。
 112しかし 西 を 向い た 家々 の 窓ガラス は 大きな 層状 の 雲 の 黄金色 を 反射 し て い た 。
 113ナニー が 僕たち を 玄関 に 迎え た 。
 114そして 大声 で 彼女 に 話しかける の は 場所柄 ふさわしく なかろ う と 、 叔母 は 彼女 と 握手 を し た だけ だっ た 。
 115老女 は 何 か 問う よう に 上 を 指し 、 叔母 が うなずく と 、 手すり の 柵 の 高さ すれすれ まで 頭 を かがめ ながら 僕たち の 前 に 立っ て 狭い 階段 を 難儀 そう に 上り に かかっ た 。
 116最初 の 踊り場 で 彼女 は 立ち止まり 、 死者 の 部屋 の 開い た ドア へ と 励ます よう に 僕たち を さし招い た 。
 117叔母 は 中 に 入り 、 老女 は 僕 が 入る の を ためらう の を 見 て 再び 繰り返し 僕 を 手 で さし招き 始め た 。
 118僕 は つま先歩き で 中 に 入っ た 。
 119部屋 に は ブラインド の 端 の レース を通して くすん だ 金色 の 光 が あふれ 、 その 中 で ろうそく は 青白く 弱々しい 炎 に 見え た 。
 120彼 は 棺 に 入れ られ て い た 。
 121ナニー が 先頭 に なっ て 、 僕たち 三 人 は ベッド の 足元 に ひざまずい た 。
 122僕 は 祈る ふり を し た が 老女 の ぶつぶつ つぶやく 声 に 気 を そらさ れ て 思い を 集中 でき なかっ た 。
 123僕 は 彼女 の スカート の 後ろ の ホック が なん と も 不器用 に 留め られ て いる こと 、 彼女 の 布製 の ブーツ の かかと の 片側 が すっかり 磨り減っ て いる こと に 気づい た 。
 124僕 は 、 そこ の 棺 の 中 に 横たわり ながら 老司祭 が 微笑ん で いる という 奇想 に 襲わ れ た 。
 125しかし 違っ た 。
 126僕たち が 立ち上がり 、 ベッド の 枕元 に 近寄っ た 時 に 見る と 彼 は 笑っ て い なかっ た 。
 127彼 は そこ に 横たわり 、 厳粛 に 仰々しく 、 祭壇 に のる か の よう に 祭服 を 着せ られ 、 大きな 手 は ゆるく 聖杯 を 抑え て い た 。
 128彼 の 顔 は 非常 に 獰猛 で 、 灰色 で どっしり し て 、 貧弱 な 、 白く 柔らか な 毛 が ぐるっ と 囲み 、 鼻孔 は 黒い 洞窟 の よう だっ た 。
 129部屋 に は 濃厚 な におい が し て い た −−
 130花 。
 131僕たち は 十字 を 切り 、 離れ た 。
 132階下 の 小さな 部屋 に 行く と イライザ が 彼 の 肘掛け椅子 に 正装 し て 座っ て い た 。
 133僕 は いつも の 隅 の 椅子 に 手探り で 進み 、 一方 ナニー は サイドボード に 行き 、 シェリー の デカンター と ワイングラス を いく つ か 持ち出し た 。
 134彼女 は これら を テーブル に 並べ 、 僕たち に ワイン を 少し 飲む よう 勧め た 。
 135それから 、 姉 の 命令 に 従い 、 彼女 は シェリー を グラス に 満たし 、 僕たち に 手渡し た 。
 136彼女 は 僕 に クリームクラッカー も どう か と しきり に 勧め た が 、 僕 は それ を 食べ て あまり 大きな 音 を 立て て は と 思い 、 断っ た 。
 137彼女 は 僕 の 辞退 に いくぶん がっかり し た よう に 見え 、 静か に 向こう の ソファ へ と 行き 、 姉 の 後ろ に 腰 を 下ろし た 。
 138誰 も 話 を し なかっ た 。
 139僕たち は 皆 、 空 の 暖炉 を じっと 見つめ た 。
 140叔母 は イライザ が ため息 を つく まで 待ち 、 それから 言っ た 。
 141「 ああ 、 それでは 、 あの 方 は より よい 世界 へ 行っ て しまっ た の ね 。 」
 142イライザ は 再び ため息 を つき 、 同意 の 印 に 頭 を 下げ た 。
 143叔母 は ワイングラス の 脚 に 指 で 触れ 、 それから 少し すすっ た 。
 144「 あの 方 は ・・・ 安らか に ? 」 と 彼女 は 尋ね た 。
 145「 おお 、 まったく 安らか でし た わ 、 奥様 」 と イライザ は 言っ た 。
 146「 いつ 息 を 引きとっ た の か わから ない くらい 。
 147美しい 死に方 でし た 、 ありがたい こと に 。 」
 148「 それで 万事 ・・・ ? 」
 149「 オルーク神父 が 火曜日 に 彼 に つきそっ て 聖油 を 塗り 、 彼 に 心構え を さ せ 、
 150そして 全部 。 」
 151「 その 時 あの 方 は わかっ て いらし て て ? 」
 152「 あの 人 は すっかり 受け入れ て まし た わ 。 」
 153「 すっかり 受け入れ て いる よう に 見え ます もの 」 と 叔母 が 言っ た 。
 154「 彼 を 清める ため に 入れ た 女性 が 言っ た の も それ です わ 。
 155彼 は まったく 眠っ て いる か の よう に 見える 、 彼 は それ ほど 安らか で 受け入れ て いる よう に 見える と 彼女 は 言っ た わ 。
 156彼 が そんな に 美しい 死体 に なる と は 誰 も 思わ なかっ た でしょう 。 」
 157「 ええ 、 本当 に 」 と 叔母 が 言っ た 。
 158彼女 は グラス から さらに 少し すすっ て 言っ た 。
 159「 ねえ 、 ミス・フリン 、 いずれにせよ あの 方 の ため に できる こと を すべて なさっ た と 思え ば あなた方 に は 大きな 慰め と なる に ちがい ない わ 。
 160お二人 とも あの 方 に は とても 優しかっ た もの 、 ほんと に 。 」
 161イライザ は ひざ の 上 の 服 の しわ を 伸ばし た 。
 162「 ああ 、 かわいそう な ジェイムズ ! 」 と 彼女 は 言っ た 。
 163「 確か に 私たち は できる 限り の こと を し た わ 、
 164貧しい なり に ね
 165− − あれ し て いる 間 、 彼 に 不自由 さ せ たく あり ませ ん でし た し 。 」
 166ナニー は ソファ の 枕 に 頭 を もたせかけ 、 今 に も 眠り込む よう に 見え た 。
 167「 かわいそう に ナニー 、 」
 168イライザ が 彼女 を 見 て 言っ た 、
 169「 彼女 は 疲れ きっ て いる の 。
 170すべて の 仕事 を 私たち 、
 171彼女 と 私 で 、 彼 を 清める 女 の 人 を 呼び 、 それから 彼 の 埋葬準備 を し て 、 それから 棺 、 それから 礼拝堂 で の ミサ の 手配 。
 172オルーク神父 が い なかっ たら 私たち 何 を し たら いい か まったく わから なくて 。
 173私たち に あの 花 を 全部 と 燭台 を 二 つ 礼拝堂 から 持っ て き た の と フリーマンズジェネラル に 通知 を 書い た の と 共同墓地 と かわいそう な ジェイムズ の 保険 の 書類 を 全部 世話 し て くれ た の は 彼 な の 。 」
 174「 それ は 親切 な こと じゃ ない ? 」 と 叔母 が 言っ た 。
 175イライザ は 目 を 閉じ 、 ゆっくり と 頭 を 振っ た 。
 176「 ああ 、 古い 友達 に 限る わ 、 」
 177彼女 は 言っ た 、
 178「 何 と 言っ て も 、 信頼 できる 友達 は 。 」
 179「 本当 に その 通り ね 」 と 叔母 が 言っ た 。
 180「 それに あの 方 も 天国 に 召さ れ て 、 あなた方 の こと や あの 方 に対する あなた方 の 親切 を 一 つ として 忘れ ない の は 確か だ 思う わ 。 」
 181「 ああ 、 かわいそう な ジェイムズ ! 」 と イライザ は 言っ た 。
 182「 彼 に 大した 面倒 は なかっ た わ 。
 183家 に い て も 今 と 同じ よう に 静か な もの でし た 。
 184それでも ね 、 わかっ てる の 、
 185彼 が 逝っ て しまっ て なに もかも が それ を ・・・ 」
 186「 すべて が 終わっ た 時 あなた 、 あの 方 が い なくて 寂しく なる でしょう よ 」 と 叔母 が 言っ た 。
 187「 わかっ てる わ 」 と イライザ が 言っ た 。
 188「 彼 に ビーフティー を 持っ て いく こと も ない ん だ わ 、
 189私 も 、 あなた だって 、 奥様 、 彼 に 嗅ぎタバコ を 届ける こと も 。
 190ああ 、 かわいそう な ジェイムズ ! 」
 191彼女 は 停止 し 、 過去 と 語り合う か の よう に し て から いまいましげ に 言っ た 。
 192「 でも ねえ 、 近頃 彼 に おかしな こと が 起こっ て いる の に は 気づい て い た の 。
 193私 が 彼 の 所 へ スープ を 持っ て いく と いつも 彼 は 聖務日課書 を 床 に 落とし 、 椅子 に 仰向け に なっ て 口 を 開い て い た 。 」
 194彼女 は 鼻 に 指 を 当て 、 顔 を しかめ た 。
 195それから 彼女 は 続け た 。
 196「 でも それ な のに 彼 は 言い 続け て た わ 、
 197夏 が 行く 前 に いい 日和 を 選ん で 馬車旅行 に 出かけ て 私たち みんな が 生まれ落ち た アイリッシュタウン に 懐かしい 家 を もう 一 度 見 に 行く ん だ って 、
 198私 と ナニー を 連れ て 。
 199あれ が 一 つ 手に入っ たら ね 、
 200最新式 の 馬車 で オルーク神父 が 言う に は 騒音 が ない ん です って 、
 201それに 中気車輪 で 、
 202一 日 安く
 203−− 彼 は 言っ た わ 、
 204あの 道 の 向こう の ジョニー・ラッシュ の 所 で って 、
 205そして 私たち 三 人 一緒 に 日曜 の 夕方 乗せ て いく と 。
 206彼 は そう 心 を 決め て ・・・
 207かわいそう な ジェイムズ ! 」
 208「 あの 方 の 魂 に お慈悲 を ! 」 と 叔母 が 言っ た 。
 209イライザ は ハンカチ を 取り出し 、 それ で 目 を ぬぐっ た 。
 210それから 彼女 は それ を また ポケット に 戻し 、 しばらく 話 を せ ずに 空 の 火床 を じっと 見入っ て い た 。
 211「 彼 は いつも 良心的 すぎ た の よ 」 と 彼女 は 言っ た 。
 212「 聖職 の 務め は 彼 に は 重荷 でし た 。
 213その 上 、 彼 の 人生 は 、 言っ て みれ ば 、 挫折 の 十字架 を 負っ て 。 」
 214「 そう ね 」 と 叔母 が 言っ た 。
 215「 あの 方 は 失意 の 人 だっ た 。
 216それ は わかり まし た もの 。 」
 217沈黙 が 小さな 部屋 を 支配 し 、 そして それ に 隠れ て 僕 は テーブル に 近づき 、 シェリー を 一 口 飲み 、 それから 静か に 隅 の 僕 の 椅子 に 戻っ た 。
 218イライザ は 深い 物思い に 陥っ て しまっ た よう だっ た 。
 219僕たち は 彼女 が 沈黙 を 破る の を 丁重 に 待っ て い た 。
 220そして 長い 間 を 置い て 、 彼女 は ゆっくり と 言っ た 。
 221「 あの 聖杯 を 彼 が 壊し て ・・・
 222あれ が その 始まり だっ た 。
 223もちろん 、 大丈夫 だ と は 言わ れ た わ 、
 224何 も 入っ て ない って ね 、
 225つまり 。
 226でも それでも ・・・
 227少年 の 責任 だ っていう こと に なっ てる 。
 228でも かわいそう に ジェイムズ は とても 神経質 に なっ て 、 神 よ 彼 に お慈悲 を ! 」
 229「 それでは そう だっ た ん です ね ? 」 と 叔母 が 言っ た 。
 230「 ちょっと 聞い た ん だ けど ・・・ 」
 231イライザ は うなずい た 。
 232「 それ が 彼 の 精神 に 障っ た の ね 」 と 彼女 は 言っ た 。
 233「 それから 彼 は 一人 で ふさぎこむ よう に なっ て 、 誰 と も 話さ ず 一人 で さまよい歩い たり し て 。
 234そうして ある 晩 、 彼 に お勤め に 出 て 欲しい と 思っ た のに 彼 が どこ に も 見つから なかっ た ん です って 。
 235上 から 下 まで 見 て 、 それでも どこ に も 彼 を 見つける こと は でき なかっ た 。
 236そう それで 書記 が ためし に 礼拝堂 は どう だろう って 。
 237そう それで あの 人たち は 鍵 を 持っ て 礼拝堂 を 開け て 書記 と オルーク神父 と そこ に い た もう 一人 の 司祭 で 彼 を 探す ため に 明かり を 持っ て 入っ て ・・・
 238そうしたら どう でしょう 、
 239彼 は そこ に い て 、 暗い 中 、 彼 の 告解室 に 一人 きり で きちんと 座っ て 、 すっかり 目 は 覚まし て 静か に 一人笑い の よう に し て い た ん です って よ 。 」
 240彼女 は 聞き耳 を 立てる か の よう に 突然 口 を つぐん だ 。
 241僕 も 聞き耳 を 立て た 。
 242しかし 家 の 中 に 音 は し なかっ た 。
 243そして 僕 に は わかっ て い た 、 老司祭 は 僕たち が 見 た 時 の まま 、 死ん で 厳粛 かつ 獰猛 に 、 聖杯 を だらり と 胸 に 、 じっと 棺 に 横 に なっ て いる こと を 。
 244イライザ は また 話し 始め た 。
 245「 すっかり 目 を 覚まし て 一人笑い を する よう に ・・・
 246そう それで 、 もちろん 、 その 時 あの 人たち が それ を 見 て 、 それで あの 人たち は 、 彼 の 何 か が 狂っ てる と 考え て ・・・ 」