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aozora_Miyamoto-1950のコンテキスト表示

title Negai wa hitotsu ni matomete (Heiwa no tame ni, genshi heiki no kinshi o)
author Miyamoto, Yuriko
date 1950
source Aozora Bunko (https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/card3298.html)
genre essay
subcorpus Aozora Bunko
terms of use Creative Commons license


 1願いは一つにまとめて
 2―― 平和のために、原子兵器の禁止を ――
 3宮本百合子
 4都会 の 主婦 も 農村 の 主婦 も 、 同じ 女性 で ある こと に 何 の ちがい が あり ましょ う 。
 5しかし 、 現実 の 生活 の 内容 は 非常 に ちがっ た 点 を もっ て い ます 。
 6工場 に 働く 婦人たち と 農業 に したがっ て いる 婦人たち と が 、 とも に 働く 婦人 で ある こと に ちがい は あり ませ ん 。
 7けれども その 労働 の 条件 と 経済事情 と 社会関係 は 互 に ひらき を もっ て い ます 。
 8だから わたくしたち 女性 と いっ て も 、 都会 に 暮す 婦人 の 気持 と 農村 に 生活 する 婦人 の 気持 と は まるで ちがっ た もの だ と いっ て しまう こと は 、 正しい でしょう か 。
 9わたくしたち は 農村 で 働い て いる 婦人 な の だ から 、 都会 の 婦人 や 工場働き の 人 と は ちがう と きめ られる でしょう か 。
 10生活 の しかた に は いろいろ の ちがい が ある けれども 、 わたくしたち に は 共通 し た 人生 の 願い という もの が 、 こんにち の 生活 から 導きださ れ て つよく 一貫 し て 流れ はじめ て いる と 思い ます 。
 11終戦 の 後 しばらく は 次 の よう に 考え て い た 年より も なく は なかっ た よう です 。
 12なにひとつ わるい こと を し なかっ た うち の 息子 ばかり 戦死 し て 、 となり の 息子 が 無事 に かえっ て き た の は いかに も くやしい 。
 13もう 一 度 戦争 でも はじまっ て 、 となり の 息子 も 戦死 すれ ば いい 、 と 。
 14今日 そう 思っ て いる 人 が はたして どこ に ある でしょう か 。
 15シベリア や 中国 から 帰還 し て き た 人 の なか に は 、 まだ ひと いくさ を 夢み て い て 、 戦争 に 反対 し 、 平和 を 叫ぶ の は アカ だ という よう な こと を いいふらし 、 村 の 民主化 を かきみだし て いる 人 も あり ます 。
 16けれども 、 そういう 人 の いる 村 で も 、 大多数 の 人 が 、 こんにち 本心 から のぞん で いる の は なに か といえば 、 第一 に 生活 の 安定 で あり 、 自分 の 国 の 人民 の 生活 を 守りたて て いく 実力 の ある 政府 が なく て は なら ない という こと で は ない でしょう か 。
 17部落 、 部落 が それぞれ 地主 あいて に 生活 を まもっ て たたかっ て い た ころ と は くらべもの に なら ない 複雑さ と 大きさ で 、 じか に 政府 の やりかた と くみうち し て 生き て いか なけれ ば なら なく なっ て き て いる 農村 の きょう の 実状 の 中 で は 、 農村 の 主婦 、 母 、 未亡人たち すべて が 、 ただ 黙々 と 野良 、 家事 、 育児 と 三 重 の 辛苦 を 負う て 目先 の 働き に 追わ れ て いく だけ で は 、 やっ て いけ ませ ん 。
 18たとえば 、 ことし の 税 の 問題 です 。
 19重税 の ため に 自殺者 や 一家心中 、 破産者 が これ ほど 出 た 国 は 、 どこ に も あり ませ ん 。
 20それ は シャウプ勧告 の 徴税法 が 過重 で ある の で は なく て 、 税務署 の 役人 の 税 を とりたてる 方法 が わるかっ た の だろう と 言わ れ た そう です 。
 21しかし 、 そう 言わ れ た からといって 、 死ん だ 人 は 生きかえり ませ ん 。
 22そして やはり 農村 は 税 で 破滅 さ せ られ かかっ て い ます 。
 23金づまり 、 そして 農村 は いたる ところ 危機 に 立っ て いる 。
 24その 危機 に 立っ て いる 日本 の 農村 の どの ひと つ の 村 と 町 に 、 戦争未亡人 が い ない という ところ が ある でしょう か 。
 25全国 二百万 ちかい 未亡人 で 十八 歳 以下 の 子もち の ひと が 八八・四 % あり ます 。
 26そして 内職 し ながら 保護法 も うけ て 生計 を 保っ て いる 未亡人 と 子供 が 全体 の 八五 % を 占め て いる と いえ ば 、 ますます ひどい 金づまり と 税 の 不安 で 、 最も 悲惨 の 加わる の は 農村 の 身より に たよっ て 生きる 未亡人 と 子供たち で は ない でしょう か 。
 27子もち の 婦人 の ため の 職場 は なかなか あり ませ ん 。
 28内職 で 十一 時間 ―― 十七 時間 働き つづけ て も 、 生活 を まかない きれ ませ ん 。
 29未亡人 が 教師 その 他 の 職業 を もっ て い て 一定 の 経済力 が あっ て も 、 その 家 の 中 で 舅姑 、 小姑 にたいする 「 嫁 」 の 立場 に かわり は ない ばかりか 、 一家 の 柱 として 供出 、 税 、 どれ ひと つ 男 の 戸主 が いる とき どおり に とり立て られ 、 増加 し て 徴収 さ れ て い ない もの は ない の が 現実 です 。
 30現在 日本 に は 一千万 人 の 小学生 が い ます 。
 31憲法 で は 、 小中学校教育 は 親 に 負担 と なら ない もの と さ れ て い ます が 、 実際 に は 、 労働者 が 一人 の 子供 を 小学校 に 出す の に さえ 大体 一 ヵ月 三 、 四百 円 は かかっ て い て 、 「 夜 の 女 」 として とらえ られ た 一人 の 未亡人 が 、 次 の 朝 入学式 に 出る 子供 の ため に どう し て も 金 が 入用 だっ た から と 泣い て 訴え た 実例 が あり ます 。
 32農村 の 苦しい 生活 の 中 で 「 くち を 減らす 」 ため に 少年労働 に 売ら れ て いく 女の子 、 男の子 の すくなく ない こと は 、 周知 の こと です 。
 33そういう 境遇 で 、 学校 へ も やら れ ず 、 労働基準法 の 取しまり の 目 を くぐっ て 農業 、 家内工業 その 他 に 働か せ られ て いる 子供たち は 一〇五万 人 も い ます 。
 34これら の 子供たち の 未来 は 明るい と は いえ ませ ん 。
 35戦争 で 父 を 失くし た 子供たち が 、 おさない 心 に 運命 を あきらめ て 社会 の 下積み に 沈ん で いく 小さい 姿 を 思いやっ た とき 、 わたしたち の 心 に 湧く の は 何 でしょう 。
 36もっと 住みよい 社会 を ! 人 が 人らしく 生き られる 社会 を ! という 願い の ほか に あり ませ ん 。
 37戦争 で 破壊 さ れ た 世の中 を 、 まし な ところ に 立て直す に は 平和 しか ない こと は 、 誰 に も わかっ て き て いる こと です 。
 38せっかく 平和 に 戦後 の 生活 を 建設 し よう と 努力 し て いる 世界 の 人々 を 、 強大 な 破壊力 を もっ た 新兵器 を つくり出し て 、 気にいら なけれ ば いつ でも それ を ぶっ放す ぞ という 風 に おどかし て いる 者 が ある と すれ ば 、 その よう な 狂気 こそ 世界 の 人類 の 理性 の 力 で 、 とりしずめ なけれ ば なり ませ ん 。
 39ソヴェト同盟 と アメリカ が 世界平和 の ため に より 近づい て 協力 し よう と し て いる こんにち 、 国内 で ひそか に 戦争 を 挑発 し て いる もの が あれ ば 、 それ こそ 平和 の 敵 です 。
 40ストックホルム で 開か れ た 世界平和擁護大会 が 、 原子兵器禁止 の 決議 を 行い 、 ヒロシマ と ナガサキ の 恐ろしい 経験 を もっ て いる 日本 の 人民 が 、 この アッピール の 先頭 に たつ だろう と 期待 し て いる の は 当然 です 。
 41戦争 は 宿命 で は あり ませ ん 。
 42人間 が おこす もの です
 43―― しかも 自分 で は 決して 死な ない 一握り の 人たち が ―― 。
 44したがって 、 より 多数 の 人間 の 努力 で 戦争 は やめ られ ます 。
 45原子兵器 も 人間 が つくり まし た 。
 46それ を 使う 使わ ない は 世界 の 人類 の 判断 と 意志 に より ます 。
 47原子兵器 は 禁止 さ れ 、 原子兵器 を 管理 する 国際的 な 委員会 が 確立 さ れ なけれ ば なり ませ ん 。
 48そして 、 これ から どの 国 に対して も はじめ に 原子兵器 を 使う 政府 は 、 人類 に対する 戦争犯罪人 として 扱わ れる べき です 。
 49わたしたち 世界 の 婦人 こそ 先頭 に たっ て 原子兵器 の 脅威 という 現代 の 悪夢 を 追いはらい ましょ う 。
 50〔 一九五〇 年 八 月 〕