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aozora_Miyazawa-1924のコンテキスト表示

title:Chuumon no ooi ryouriten
author:Miyazawa, Kenji
date:1924
source:Aozora Bunko (http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card43754.html)
genre:fiction
subcorpus:Aozora Bunko
terms of use:Creative Commons license


 1注文 の 多い 料理店
 2宮沢賢治
 3二人 の 若い 紳士 ( しんし ) が 、 すっかり イギリス の 兵隊 の かたち を し て 、 ぴかぴか する 鉄砲 ( てっぽう ) を かつい で 、 白熊 ( しろくま ) の よう な 犬 を 二 疋(ひき) つれ て 、 だいぶ 山奥 ( やまおく ) の 、 木の葉 の かさかさ し た とこ を 、 こんな こと を 云(い)い ながら 、 あるい て おり まし た 。
 4「 ぜんたい 、 ここら の 山 は 怪(け)しからん ね 。
 5鳥 も 獣 ( けもの ) も 一 疋 も 居 やがら ん 。
 6なん でも 構わ ない から 、 早く タンタアーン と 、 やっ て 見 たい もん だ なあ 。 」
 7「 鹿 ( しか ) の 黄いろ な 横っ腹 なんぞ に 、 二三 発 お見舞(みまい) もうし たら 、 ずいぶん 痛快 だろう ねえ 。
 8くるくる まわっ て 、 それから どたっと 倒(たお)れる だろう ねえ 。 」
 9それ は だいぶ の 山奥 でし た 。
 10案内 し て き た 専門 の 鉄砲打ち も 、 ちょっと まごつい て 、 どこ か へ 行っ て しまっ た くらい の 山奥 でし た 。
 11それに 、 あんまり 山 が 物凄(ものすご)い ので 、 その 白熊 の よう な 犬 が 二 疋 、 いっしょ に めまい を 起こし て 、 しばらく 吠(うな)っ て 、 それから 泡 ( あわ ) を 吐(は)い て 死ん で しまい まし た 。
 12「 じつに ぼく は 、 二千四百 円 の 損害 だ 」 と 一人 の 紳士 が 、 その 犬 の 眼(ま)ぶた を 、 ちょっと かえし て み て 言い まし た 。
 13「 ぼく は 二千八百 円 の 損害 だ 。 」 と 、 も ひとり が 、 くやし そう に 、 あたま を まげ て 言い まし た 。
 14はじめ の 紳士 は 、 すこし 顔いろ を 悪く し て 、 じっと 、 も ひとり の 紳士 の 、 顔つき を 見 ながら 云い まし た 。
 15「 ぼく は もう 戻(もど)ろ う と おもう 。 」
 16「 さあ 、 ぼく も ちょうど 寒く は なっ た し 腹 は 空(す)い て き た し 戻ろ う と おもう 。 」
 17「 そいじゃ 、 これ で 切りあげ よう 。
 18なあに 戻り に 、 昨日 ( きのう ) の 宿屋 で 、 山鳥 を 拾 円 ( じゅうえん ) も 買っ て 帰れ ば いい 。 」
 19「 兎 ( うさぎ ) も で て い た ねえ 。
 20そう すれ ば 結局 おんなじ こっ た 。
 21では 帰ろ う じゃ ない か 」
 22ところが どう も 困っ た こと は 、 どっち へ 行け ば 戻れる の か 、 いっこう に 見当 が つか なく なっ て い まし た 。
 23風 が どう と 吹(ふ)い て き て 、 草 は ざわざわ 、 木の葉 は かさかさ 、 木 は ごとんごとん と 鳴り まし た 。
 24「 どう も 腹 が 空い た 。
 25さっき から 横っ腹 が 痛く て たまらない ん だ 。 」
 26「 ぼく も そう だ 。
 27もう あんまり あるき たく ない な 。 」
 28「 あるき たく ない よ 。
 29ああ 困っ た なあ 、
 30何 か たべ たい なあ 。 」
 31「 喰(た)べ たい もん だ なあ 」
 32二人 の 紳士 は 、 ざわざわ 鳴る すすき の 中 で 、 こんな こと を 云い まし た 。
 33その 時 ふと うしろ を 見 ます と 、 立派 な 一 軒 ( いっけん ) の 西洋造り の 家 が あり まし た 。
 34そして 玄関 ( げんかん ) に は RESTAURANT西洋料理店WILDCATHOUSE山猫軒 という 札 が で て い まし た 。
 35「 君 、 ちょうど いい 。
 36ここ は これ で なかなか 開け てる ん だ 。
 37入ろ う じゃ ない か 」
 38「 おや 、 こんな とこ に おかしい ね 。
 39しかし とにかく 何 か 食事 が できる ん だろう 」
 40「 もちろん できる さ 。
 41看板 に そう 書い て ある じゃ ない か 」
 42「 はいろ う じゃ ない か 。
 43ぼく は もう 何 か 喰べ たく て 倒れ そう な ん だ 。 」
 44二人 は 玄関 に 立ち まし た 。
 45玄関 は 白い 瀬戸 ( せと ) の 煉瓦 ( れんが ) で 組ん で 、 実に 立派 な もん です 。
 46そして 硝子 ( がらす ) の 開き戸 が たっ て 、 そこ に 金文字 で こう 書い て あり まし た 。
 47「 どなた も どうか お入り ください 。
 48決して ご遠慮(えんりょ) は あり ませ ん 」
 49二人 は そこで 、 ひどく よろこん で 言い まし た 。
 50「 こいつ は どう だ 、
 51やっぱり 世の中 は うまく でき てる ねえ 、
 52きょう 一 日 なんぎ し た けれど 、 こんど は こんな いい こと も ある 。
 53この うち は 料理店 だ けれども ただ で ご馳走(ちそう) する ん だ ぜ 。 」
 54「 どう も そう らしい 。
 55決して ご遠慮 は あり ませ ん という の は その 意味 だ 。 」
 56二人 は 戸 を 押(お)し て 、 なか へ 入り まし た 。
 57そこ は すぐ 廊下 ( ろうか ) に なっ て い まし た 。
 58その 硝子戸 の 裏側 に は 、 金文字 で こう なっ て い まし た 。
 59「 ことに 肥(ふと)っ た お方 や 若い お方 は 、 大歓迎(だいかんげい) いたし ます 」
 60二人 は 大歓迎 と いう ので 、 もう 大よろこび です 。
 61「 君 、 ぼくら は 大歓迎 に あたっ て いる の だ 。 」
 62「 ぼくら は 両方 兼ね てる から 」
 63ずんずん 廊下 を 進ん で 行き ます と 、 こんど は 水いろ の ペンキ塗(ぬ)り の 扉 ( と ) が あり まし た 。
 64「 どう も 変 な 家 ( うち ) だ 。
 65どうして こんな に たくさん 戸 が ある の だろう 。 」
 66「 これ は ロシア式 だ 。
 67寒い とこ や 山 の 中 は みんな こう さ 。 」
 68そして 二人 は その 扉 を あけ よう と し ます と 、 上 に 黄いろ な 字 で こう 書い て あり まし た 。
 69「 当軒 は 注文 の 多い 料理店 です から どうか そこ は ご承知 ください 」
 70「 なかなか はやっ てる ん だ 。
 71こんな 山 の 中 で 。 」
 72「 それあ そう だ 。
 73見 たまえ 、
 74東京 の 大きな 料理屋 だって 大通り に は すくない だろう 」
 75二人 は 云い ながら 、 その 扉 を あけ まし た 。
 76すると その 裏側 に 、 「 注文 は ずいぶん 多い でしょう が どうか 一々 こらえ て 下さい 。 」
 77「 これ は ぜんたい どういう ん だ 。 」
 78ひとり の 紳士 は 顔 を しかめ まし た 。
 79「 うん 、 これ は きっと 注文 が あまり 多く て 支度 ( したく ) が 手間取る けれども ごめん下さい と 斯(こ)ういう こと だ 。 」
 80「 そう だろう 。
 81早く どこ か 室 ( へや ) の 中 に はいり たい もん だ な 。 」
 82「 そして テーブル に 座(すわ)り たい もん だ な 。 」
 83ところが どう も うるさい こと は 、 また 扉 が 一 つ あり まし た 。
 84そして その わき に 鏡 が かかっ て 、 その 下 に は 長い 柄 ( え ) の つい た ブラシ が 置い て あっ た の です 。
 85扉 に は 赤い 字 で 、 「 お客さまがた 、 ここ で 髪 ( かみ ) を きちんと し て 、 それから はきもの の 泥 ( どろ ) を 落し て ください 。 」 と 書い て あり まし た 。
 86「 これ は どう も 尤(もっと)も だ 。
 87僕 も さっき 玄関 で 、 山 の なか だ と おもっ て 見くびっ た ん だ よ 」
 88「 作法 の 厳しい 家 だ 。
 89きっと よほど 偉(えら)い 人たち が 、 たびたび 来る ん だ 。 」
 90そこで 二人 は 、 きれい に 髪 を けずっ て 、 靴 ( くつ ) の 泥 を 落し まし た 。
 91そしたら 、 どう です 。
 92ブラシ を 板 の 上 に 置く や否(いな)や 、 そいつ が ぼうっと かすん で 無くなっ て 、 風 が どうっと 室 の 中 に 入っ て き まし た 。
 93二人 は びっくり し て 、 互 ( たがい ) に よりそっ て 、 扉 を がたんと 開け て 、 次 の 室 へ 入っ て 行き まし た 。
 94早く 何 か 暖い もの でも たべ て 、 元気 を つけ て 置か ない と 、 もう 途方 ( とほう ) も ない こと に なっ て しまう と 、 二人 とも 思っ た の でし た 。
 95扉 の 内側 に 、 また 変 な こと が 書い て あり まし た 。
 96「 鉄砲 と 弾丸 ( たま ) を ここ へ 置い て ください 。 」
 97見る と すぐ 横 に 黒い 台 が あり まし た 。
 98「 なるほど 、 鉄砲 を 持っ て もの を 食う という 法 は ない 。 」
 99「 いや 、 よほど 偉い ひと が 始終 来 て いる ん だ 。 」
 100二人 は 鉄砲 を はずし 、 帯皮 を 解い て 、 それ を 台 の 上 に 置き まし た 。
 101また 黒い 扉 が あり まし た 。
 102「 どうか 帽子 ( ぼうし ) と 外套 ( がいとう ) と 靴 を おとり 下さい 。 」
 103「 どうだ 、 とる か 。 」
 104「 仕方ない 、
 105とろ う 。
 106たしか に よっぽど えらい ひと な ん だ 。 奥 に 来 て いる の は 」
 107二人 は 帽子 と オーバーコート を 釘 ( くぎ ) に かけ 、 靴 を ぬい で ぺたぺた あるい て 扉 の 中 に はいり まし た 。
 108扉 の 裏側 に は 、 「 ネクタイピン 、 カフスボタン 、 眼鏡 ( めがね ) 、 財布 ( さいふ ) 、 その 他 金物類 ことに 尖(とが)っ た もの 、 は 、 みんな ここ に 置い て ください 」 と 書い て あり まし た 。
 109扉 の すぐ 横 に は 黒塗り の 立派 な 金庫 も 、 ちゃんと 口 を 開け て 置い て あり まし た 。
 110鍵 ( かぎ ) まで 添(そ)え て あっ た の です 。
 111「 ははあ 、 何 か の 料理 に 電気 を つかう と 見える ね 。
 112金気 ( かなけ ) の もの は あぶない 。
 113ことに 尖っ た もの は あぶない と 斯(こ)う 云う ん だろう 。 」
 114「 そう だろう 。
 115して見ると 勘定 ( かんじょう ) は 帰り に ここ で 払(はら)う の だろう か 。 」
 116「 どう も そう らしい 。 」
 117「 そう だ 。
 118きっと 。 」
 119二人 は めがね を はずし たり 、 カフスボタン を とっ たり 、 みんな 金庫 の なか に 入れ て 、 ぱちん と 錠 ( じょう ) を かけ まし た 。
 120すこし 行き ます と また 扉 ( と ) が あっ て 、 その 前 に 硝子 ( がらす ) の 壺 ( つぼ ) が 一 つ あり まし た 。
 121扉 に は 斯(こ)う 書い て あり まし た 。
 122「 壺 の なか の クリーム を 顔 や 手足 に すっかり 塗っ て ください 。 」
 123みる と たしか に 壺 の なか の もの は 牛乳 の クリーム でし た 。
 124「 クリーム を ぬれ という の は どういう ん だ 。 」
 125「 これ は ね 、 外 が ひじょう に 寒い だろう 。
 126室 ( へや ) の なか が あんまり 暖い と ひび が きれる から 、 その 予防 な ん だ 。
 127どう も 奥 に は 、 よほど えらい ひと が き て いる 。
 128こんな とこ で 、 案外 ぼくら は 、 貴族 と ちかづき に なる かも 知れ ない よ 。 」
 129二人 は 壺 の クリーム を 、 顔 に 塗っ て 手 に 塗っ て それから 靴下 を ぬい で 足 に 塗り まし た 。
 130それでも まだ 残っ て い まし た から 、 それ は 二人 とも めいめい こっそり 顔 へ 塗る ふり を し ながら 喰べ まし た 。
 131それから 大急ぎ で 扉 を あけ ます と 、 その 裏側 に は 、 「 クリーム を よく 塗り まし た か 、 耳 に も よく 塗り まし た か 、 」 と 書い て あっ て 、 ちいさな クリーム の 壺 が ここ に も 置い て あり まし た 。
 132「 そうそう 、 ぼく は 耳 に は 塗ら なかっ た 。
 133あぶなく 耳 に ひび を 切らす とこ だっ た 。
 134ここ の 主人 は じつに 用意周到(しゅうとう) だ ね 。 」
 135「 ああ 、 細かい とこ まで よく 気がつく よ 。
 136ところで ぼく は 早く 何 か 喰べ たい ん だ が 、 どう も 斯う どこ まで も 廊下 じゃ 仕方ない ね 。 」
 137すると すぐ その 前 に 次 の 戸 が あり まし た 。
 138「 料理 は もうすぐ でき ます 。
 139十五 分 と お待たせ は いたし ませ ん 。
 140すぐ たべ られ ます 。
 141早く あなた の 頭 に 瓶 ( びん ) の 中 の 香水 を よく 振(ふ)りかけ て ください 。 」
 142そして 戸 の 前 に は 金ピカ の 香水 の 瓶 が 置い て あり まし た 。
 143二人 は その 香水 を 、 頭 へ ぱちゃぱちゃ 振りかけ まし た 。
 144ところが その 香水 は 、 どう も 酢(す) の よう な 匂(におい) が する の でし た 。
 145「 この 香水 は へん に 酢くさい 。
 146どう し た ん だろう 。 」
 147「 まちがえ た ん だ 。
 148下女 が 風邪 ( かぜ ) でも 引い て まちがえ て 入れ た ん だ 。 」
 149二人 は 扉 を あけ て 中 に はいり まし た 。
 150扉 の 裏側 に は 、 大きな 字 で 斯う 書い て あり まし た 。
 151「 いろいろ 注文 が 多く て うるさかっ た でしょう 。
 152お気の毒 でし た 。
 153もう これ だけ です 。
 154どうか からだ中 に 、 壺 の 中 の 塩 を たくさん よく もみ込ん で ください 。 」
 155なるほど 立派 な 青い 瀬戸 の 塩壺 は 置い て あり まし た が 、 こんど という こんど は 二人 とも ぎょっと し て お互 に クリーム を たくさん 塗っ た 顔 を 見合せ まし た 。
 156「 どう も おかしい ぜ 。 」
 157「 ぼく も おかしい と おもう 。 」
 158「 沢山 ( たくさん ) の 注文 という の は 、 向う が こっち へ 注文 し てる ん だ よ 。 」
 159「 だから さ 、 西洋料理店 という の は 、 ぼく の 考える ところ で は 、 西洋料理 を 、 来 た 人 に たべ させる の で は なくて 、 来 た 人 を 西洋料理 に し て 、 食べ て やる 家 ( うち ) と こういう こと な ん だ 。
 160これ は 、 その 、 つ 、 つ 、 つ 、 つまり 、 ぼ 、 ぼ 、 ぼくら が ……。 」
 161がたがた がたがた 、 ふるえ だし て もう もの が 言え ませ ん でし た 。
 162「 その 、 ぼ 、 ぼくら が 、…… うわあ 。 」
 163がたがた がたがた ふるえ だし て 、 もう もの が 言え ませ ん でし た 。
 164「 遁(に)げ ……。 」
 165がたがた し ながら 一人 の 紳士 は うしろ の 戸 を 押(お)そ う と し まし た が 、 どうです 、 戸 は もう 一 分 ( いちぶ ) も 動き ませ ん でし た 。
 166奥 の 方 に は まだ 一 枚 扉 が あっ て 、 大きな かぎ穴 が 二 つ つき 、 銀いろ の ホーク と ナイフ の 形 が 切りだし て あっ て 、 「 いや 、 わざわざ ご苦労 です 。 大へん 結構 に でき まし た 。 さあ さあ おなか に おはいり ください 。 」 と 書い て あり まし た 。
 167おまけに かぎ穴 から は きょろきょろ 二 つ の 青い 眼玉 ( めだま ) が こっち を のぞい て い ます 。
 168「 うわあ 。 」
 169がたがた がたがた 。
 170「 うわあ 。 」
 171がたがた がたがた 。
 172ふたり は 泣き 出し まし た 。
 173すると 戸 の 中 で は 、 こそこそ こんな こと を 云っ て い ます 。
 174「 だめ だ よ 。
 175もう 気がつい た よ 。
 176塩 を もみこま ない よう だ よ 。 」
 177「 あたりまえ さ 。
 178親分 の 書きよう が まずい ん だ 。
 179あすこ へ 、 いろいろ 注文 が 多く て うるさかっ た でしょう 、 お気の毒 でし た なんて 、 間抜(まぬ)け た こと を 書い た もん だ 。 」
 180「 どっち でも いい よ 。
 181どうせ ぼくら に は 、 骨 も 分け て 呉(く)れ や し ない ん だ 。 」
 182「 それ は そう だ 。
 183けれども もし ここ へ あいつら が はいっ て 来 なかっ たら 、 それ は ぼくら の 責任 だ ぜ 。 」
 184「 呼ぼ う か 、
 185呼ぼ う 。
 186おい 、 お客さん方 、 早く いらっしゃい 。
 187いらっしゃい 。
 188いらっしゃい 。
 189お皿 ( さら ) も 洗っ て あり ます し 、 菜っ葉 も もう よく 塩 で もん で 置き まし た 。
 190あと は あなたがた と 、 菜っ葉 を うまく とりあわせ て 、 まっ白 な お皿 に のせる だけ です 。
 191はやく いらっしゃい 。 」
 192「 へい 、 いらっしゃい 、
 193いらっしゃい 。
 194それとも サラド は お嫌(きら)い です か 。
 195そんなら これ から 火 を 起し て フライ に し て あげ ましょ う か 。
 196とにかく はやく いらっしゃい 。 」
 197二人 は あんまり 心 を 痛め た ため に 、 顔 が まるで くしゃくしゃ の 紙屑 ( かみくず ) の よう に なり 、 お互 に その 顔 を 見合せ 、 ぶるぶる ふるえ 、 声 も なく 泣き まし た 。
 198中 で は ふっふっ と わらっ て また 叫(さけ)ん で い ます 。
 199「 いらっしゃい 、
 200いらっしゃい 。
 201そんな に 泣い て は 折角 ( せっかく ) の クリーム が 流れる じゃ あり ませ ん か 。
 202へい 、 ただいま 。
 203じき もっ て まいり ます 。
 204さあ 、 早く いらっしゃい 。 」
 205「 早く いらっしゃい 。
 206親方 が もう ナフキン を かけ て 、 ナイフ を もっ て 、 舌なめずり し て 、 お客さま方 を 待っ て い られ ます 。 」
 207二人 は 泣い て 泣い て 泣い て 泣い て 泣き まし た 。
 208その とき うしろ から いきなり 、 「 わん 、 わん 、 ぐゎあ 。 」 という 声 が し て 、 あの 白熊 ( しろくま ) の よう な 犬 が 二 疋 ( ひき ) 、 扉 ( と ) を つきやぶっ て 室 ( へや ) の 中 に 飛び込ん で き まし た 。
 209鍵穴 ( かぎあな ) の 眼玉 は たちまち なくなり 、 犬ども は うう と うなっ て しばらく 室 の 中 を くるくる 廻(まわ)っ て い まし た が 、 また 一 声 「 わん 。 」 と 高く 吠(ほ)え て 、 いきなり 次 の 扉 に 飛びつき まし た 。
 210戸 は がたり と ひらき 、 犬ども は 吸い込ま れる よう に 飛ん で 行き まし た 。
 211その 扉 の 向う の まっくらやみ の なか で 、 「 にゃあお 、 くゎあ 、 ごろごろ 。 」 という 声 が し て 、 それから がさがさ 鳴り まし た 。
 212室 は けむり の よう に 消え 、 二人 は 寒さ に ぶるぶる ふるえ て 、 草 の 中 に 立っ て い まし た 。
 213見る と 、 上着 や 靴 ( くつ ) や 財布 ( さいふ ) や ネクタイピン は 、 あっち の 枝 ( えだ ) に ぶらさがっ たり 、 こっち の 根もと に ちらばっ たり し て い ます 。
 214風 が どうと 吹(ふ)い て き て 、 草 は ざわざわ 、 木の葉 は かさかさ 、 木 は ごとんごとん と 鳴り まし た 。
 215犬 が ふう と うなっ て 戻(もど)っ て き まし た 。
 216そして うしろ から は 、 「 旦那(だんな)あ 、 旦那あ 、 」 と 叫ぶ もの が あり ます 。
 217二人 は 俄(にわ)かに 元気 が つい て 「 おおい 、 おおい 、 ここ だ ぞ 、 早く 来い 。 」 と 叫び まし た 。
 218簔帽子 ( みのぼうし ) を かぶっ た 専門 の 猟師 ( りょうし ) が 、 草 を ざわざわ 分け て やってき まし た 。
 219そこで 二人 は やっと 安心 し まし た 。
 220そして 猟師 の もっ て き た 団子 ( だんご ) を たべ 、 途中 ( とちゅう ) で 十 円 だけ 山鳥 を 買っ て 東京 に 帰り まし た 。
 221しかし 、 さっき 一 ぺん 紙くず の よう に なっ た 二人 の 顔 だけ は 、 東京 に 帰っ て も 、 お湯 に はいっ て も 、 もう もと の とおり に なおり ませ ん でし た 。