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aozora_Nomura-19-1950のコンテキスト表示

title Zuihitsu Zenigata Heiji (19. Tantei shoosetsu konogoro)
author Nomura, Kodo
date 1950
source Aozora Bunko (https://www.aozora.gr.jp/cards/001670/card54836.html)
genre essay
subcorpus Aozora Bunko
terms of use Creative Commons license


 1探偵小説このごろ
 2野村胡堂
 3江戸川乱歩
 4+ 目次
 5「銭形平次」で世界的多作家に
 6江戸川乱歩
 7ずいぶん 書い た ね 。
 8「 捕物帖 」 は …… 何 篇 くらい に なっ た ?
 9野村胡堂
 10ハッキリ し た こと は わから ない が 、 三百 篇 は 越し て いる だろう 。
 11もっとも わたし の 捕物帖 は 、 「 銭形平次 」 と 「 池田大助捕物控 」 と 両方 だ から ね 。
 12銭形 の 方 は 、 二百四 、 五十 篇 という ところ か な ?
 13よく 書い た もの だ われ ながら …… 。
 14「 オール読物 」 の 創刊号 から 毎号 一 篇 ずつ 載せ はじめ て …… 五 年目 だっ た か に 半 年 くらい 休ん だ 。
 15休ん だ の は それ だけ だ 。
 16そしたら 読者 が 承知 し なくて ね 。
 17販売店 が うるさく いっ て くる ん だ そう だ 。
 18それで また 載せ はじめ た わけ だ 。
 19江戸川
 20銭形平次 が 登場 し て から 何 年 くらい に なる だろう ?
 21野村
 22今年 で もう 二十一 年目 だ よ 。
 23江戸川
 24こんな に 多く の 短篇 を 書い た 人 は 外国 に も 例 が ない ( これ は 探偵小説 の 場合 ) 。
 25英国 の コナン・ドイル ( 名探偵シャーロック・ホームズ物語 の 作者 ) が 相当 書い て いる よう で 、 あれ で 六十 篇 くらい の もの だ し 、 同じく 英国 の チェスタートン ( 神父ブラウン物語 の 作者 ) だって 八十 篇 だ 。
 26野村
 27その かわり わたし の 書く の は 、 あなた の もの の よう に 、 行き詰っ て しまう よう な 凝っ た もの じゃ ない 。
 28江戸川
 29それにしても 、 探偵小説 だ から どう し て も トリック が いる 。
 30よく それ だけ の トリック を 考え出す もの だ 。
 31三百 篇 の うち 同じ トリック を つかっ た もの は ない ん だろう ?
 32野村
 33それ は ない 。
 34もっとも つい 忘れ て しまっ て 、 似 た よう な トリック を つかっ て 別 の を 書い て しまう こと は あっ て も …… 全然 同じ という こと は ない ね 。
 35江戸川
 36ウム 。
 37そこで その 心境 だ な 、 聞い て み たい の は ……
 38それ だけ 多作 し て いる 間 の 気持ち は ?
 39野村
 40そう だ ね 。
 41むかし は 大衆小説風 に 書い た ね 。
 42チャンバラ式 に だ 。
 43それから だんだん コナン・ドイル風 に なっ て き た 。
 44近ごろ は 心理的 に 書こ う という 気持ち に なっ て き て いる 。
 45性格描写 など に も 力 を いれ て ね 。
 46しかし ね 。
 47三十 枚 そこそこ の 長さ じゃ 、 とても そんな の は 書け ぬ 。
 48江戸川
 49そう だ ね 。
 50原稿用紙 三十 枚 で は 探偵小説的面白さ は 出せ ない 。
 51ドイル時代 は だいたい 百 枚 …… 。
 52野村
 53五十 枚 以上 の 長さ で ない と ダメ だ 。
 54アメリカにも「捕物帖」があった
 55江戸川
 56そうすると 、 あなた の 銭形平次 は だんだん 文学的 に なっ て き て いる わけ だ な 。
 57もっとも 捕物帖 は 、 時代 が 古い から 外国 の 探偵小説 みたい に 自由自在 に 謎 を つくる わけ に いか ん から 苦心 さ せ られる な 。
 58野村
 59江戸時代 という 魅力 が ある んで 、 書い て い て も 楽しい 。
 60江戸川
 61ところで 、 ぼく は 最近 アメリカ の 捕物帖 を 発見 し た ん だ 。
 62作家 は ポースト と いっ て ヴァン・ダイン ( 「 グリーン家の惨劇 」 の 作者 ) より 古い 。
 63作品 の 時代 は アメリカ の 南北戦争 より 前 、 開拓時代 に なっ て いる 。
 64幌馬車 と 牧場 の ころ な ん だ 。
 65銭形平次 に 相当 する 名探偵 は 「 アブナー叔父さん 」 と いっ て 、 牧場主 な ん だ 。
 66これ が 、 すべて の 作品 に 登場 し て き て 、 ズバリ ズバリ と 明快 な 推理 を やる ん だ が 、 そういう 素朴 な 時代 だ から 犯罪 の トリック も 捕物帖 ていど の 簡単 な もの だ 。
 67捕まっ た 犯人 が 裁判 に かけ られ たり する ん だ が 、 政治 も 法律 も 自分たち が つくっ た もの だ という 考え方 が 作中 に あふれ て い て 、 たいへん 面白い 。
 68この 種 の 小説 の 作家 として は エドガァ・アラン・ポウ 以後 ヴァン・ダイン まで の 最大 の 作家 で アメリカ で も 珍重 さ れ て いる らしい 。
 69野村
 70探偵小説 にしても その 時代 の ふんい気 が 重大 だ ね 。
 71江戸川
 72あなた は 捕物帖 に ユーモア も いれ て い ます ね 。
 73野村
 74わたし は 「 銭形平次 」 は ユーモラス な 会話 で 江戸時代 の 洒落 を 出し たい 、 アメリカ映画流儀 の 気 の きい た 会話 で 筋 を 進める よう に し たい と 思っ て いる ん だ が 、 「 池田大助 」 の 方 は これ と は 趣き を 変え て 、 ストーリー を 主 に する 。
 75こういう 風 に 二 つ の 捕物帖 を 区別 し て ある ん だ 。
 76平次と八五郎は社会部長と部員
 77野村
 78わたし の 知っ て いる 共同通信 の 記者 な ん だ が 、 銭形平次 と 八五郎 は 親分 と 子分 という 関係 で は なく 、 社会部長あたり と その 部員 …… そっくり 新聞記者的関係 です ね 、 と いっ て い た が 、 まァ そう いわ れる と 、 そう も いえる 。
 79わたし は 長い こと 社会部長 ( 報知新聞 の ) を やっ て い た が 、 面白かっ た な 。
 80ずいぶん 部員 の 尻ぬぐい も さ せ られ て ね 。
 81ある 日 社 へ いっ て みる と 誰 も い ない 。
 82変 だ な 、 どう し た ん だろう ? と 思っ て いる と 電話 が かかっ て き て …… みんな 板橋 あたり へ 遊び に いっ て 、 勘定 が 払え ない もん だ から 、 帰れ ない 。 そこ へ 籠城 し て いる と いう ん だ 。
 83助け に き て 下さい って わけ な ん だ 。
 84みんな を 助け出し て やら ん こと に は 仕事 に さしつかえる し ね 。
 85しょっちゅう あっ た よ 。 そういう こと が ……
 86江戸川
 87ほウ 。
 88野村
 89しかし 楽しかっ た 。
 90ある 雑誌社 で 座談会 を やっ て 、 今 まで に どんな 仕事 が 面白かっ た か と 、 聞か れ た んで 、 なに が 面白い と いっ て 新聞記者 くらい 面白い こと は なかっ た 、 と いっ た 。
 91江戸川
 92野村さん は 、 ぼく の 恩人 だ よ 。
 93あんた が 「 写真報知 」 という 週刊誌 を やっ て いる ころ 、 ぼく に 原稿 を 書か せ て くれ た 。
 94「 新青年 」 以外 に 書い た の は それ が はじめて で 、 しかも 新青年 の 倍 の 原稿料 を くれ た 。
 95まったく 忘れ られ ない 。
 96野村
 97わたし の 恩人 は 、 亡くなっ た 直木三十五 で ね 。
 98彼 は 「 文藝春秋 」 に さかん に わたし を 推賞 し て くれ た 。
 99わたし は 四十六 歳 に なっ て 小説 を 書き はじめ た ん だ けど 、 妙 な ところ に 恩人 が いる もん で ね 。
 100山手樹一郎君 も 、 わたし に 「 譚海 」 という 雑誌 に 九 年 連載 の もの を 書か し て くれ た 。
 101江戸川
 102一番 古い 捕物帖 の 作者 と いう と やっぱり 岡本綺堂 か な ?
 103野村
 104まァ そう だ ね 。
 105それから 佐々木味津三 、 林不忘 ……
 106みんな 亡くなっ て しまっ た 。
 107江戸川
 108あの 銭形平次 の 投げ銭 …… あんな こと が むかし あっ た の か な ?
 109野村
 110いや 、 それ を ラジオ の 「 朝の訪問 」 の アナウンサー君 に きか れ て 弱っ た 。
 111あんな の は 実際 に は なかっ たろ う な 。
 112わたし の は 「 水滸伝 」 に 出 て くる 没羽箭張清 という 豪傑 、 腰 に 錦 の 袋 を 持っ て い て 、 その 中 から 石ころ を とっ て 投げる 。
 113これ に は さしも の 黒旋風 も 悩まさ れる ん だ が 、 それ に ヒント を 得 た と いえ ば いえる し …… 。
 114吉田首相へお礼しなくちゃア……
 115江戸川
 116あなた の は 、 はじめ は 外国探偵小説 の 翻案 だ と 思わ れ た でしょう ?
 117野村
 118そう 、 はじめ は まちがえ られ て ね 。
 119翻案 は 全然 ない 。
 120しかし 、 どうも 日本 は 探偵小説 や 捕物帖 を 目 の 仇 に する ね 。
 121小泉信三氏 から 聞い た 話 だ が …… イギリス の ある 有名 な 首相 だ よ 。
 122政局 の 動き が 思わしく なくて 、 憂鬱 に なっ て い た 。
 123ある 日 とても 愉快 そう に ニコニコ し て いる ので 、 夫人 が 政局 が うまい ぐあい に 打開 さ れ た か 、 と 喜び 「 どう なさっ た の ? 予算 が 議会 を 通っ た の で ござい ます か 」 と 聞い たら 「 いや 、 嬉しい じゃ ない か 、 コナン・ドイル が また 新しい 小説 を 書き はじめ た そう だ 」 と いっ た という 話 。
 124江戸川
 125吉田首相 も 探偵小説 の 愛読者 な ん だ そう じゃ ない です か 。
 126野村
 127牧野伸顕氏 も 実に 好き だっ た らしい 。
 128ある 外交官 が 外国 へ いく 前 に 、 牧野さん を 訪ね て 「 なに か ご注文 は ? 」 と 聞い たら 「 面白い 探偵小説 を 二 、 三 冊 送っ て くれ 」 と いっ た そう だ 。
 129江戸川
 130探偵小説 は 、 外国 で は 老人 が 読ん で いる 。
 131日本 で は 若い もの が 読む 。
 132まるで 反対 だ 。
 133ぼく は 書き はじめ て から 二十五 年 に なる が 、 このごろ に なっ て 、 代議士 に なっ て いる くらい の 年輩 の 人 に 、 「 読ん で い ます よ 」 と いわ れる よう に なっ た 。
 134嬉しく なる ね 。
 135野村
 136吉田首相 が わたし の 捕物帖 を 読ん で いる と いう んで 、 新聞 や ラジオ で ずいぶん 冷かさ れ て 、 困っ た よ 。
 137しかし 、 おかげ で 、 だいぶ 宣伝 に なっ て ね 。
 138その うち に お礼 に いか ない と いか ん な 。
 139江戸川
 140この 前 アメリカ へ いっ た 金森徳次郎氏 に 会っ た 。
 141アメリカ で 国会 の 図書館 へ 案内 さ れ た 。
 142たいした ライブラリー で ね 。
 143アメリカ の 議員さん は 、 ずいぶん 勉強 する でしょう ね と 彼 が きく と 、 「 なあに 、 読ん で いる の は フィクション ( 小説 ) か デテクティヴ ( 探偵もの ) です よ 」 と いっ て い た そう だ 。
 144探偵小説は犯罪の予防薬である
 145野村
 146わたし は ね 、 こう 思う ん だ 。
 147探偵小説 は 盲目的本能 の 安全弁 だ と 。
 148探偵小説 を 読ん で いる 人 は 兇悪 な 犯罪 は やら ない 。
 149先生 に 毒入りウイスキー を 贈っ て 殺し た 東大小石川分院 の 蓮見 。
 150あんな 犯罪 は 一見 探偵小説 を まね た よう で 、 しかし 決して あの 犯人 は 探偵小説 を 読ん で い ない ね 。
 151探偵小説 は 想像力 を 養う の に 役立つ よ 。
 152想像力 を もっ て い ない という こと は 恐ろしい こと で 、 ああ すれ ば 、 こう なる という こと を 知ら ない 。
 153だから どんな 兇悪 な 犯罪 でも やれる 。
 154少年犯罪 の 多い の も 、 少年たち が 精神的失緊状態 に なっ て いる ため で 、 オシッコ を たれ流す の と なんら 違い が ない 。
 155本能 の おもむく まま に やっ て しまう という 状態 な ん だ 。
 156想像力 を 盛ん に すれ ば 行為 の 結果 について 考える から 犯罪予防 に なる と 思う ね 。
 157江戸川
 158むかし は ちょっとした 手 の こん だ 犯罪 が ある と 、 犯人 は 探偵小説 の 愛読者 に し て しまっ たり し た もの だ ね 。
 159ところで あなた の 奥さん は 、 あなた の 作品 を 読ん で いる ?
 160野村
 161それが また どうして 女房 という もの は こんな に も 亭主 の もの を 読ま ない ん だ 、 と いつ か 話 合っ た こと が ある ん だ が 、 うち の 女房 は まるで 読ま ない ね 。
 162もっとも 子供 は 熱心 な 愛読者 で ね 。
 163女房 という もの は 、 亭主 を 一 から 十 まで 知り すぎ て いる から 、 その 書く もの に も 興味 を 持た ん の じゃ ない か ね 。
 164江戸川
 165亭主 が 道楽 を はじめる と 、 こんど は 読む 。
 166作品 の どっ か に 現われ て い や し ない か と 隅 から 隅 まで ……
 167野村
 168道楽 は し ない ね 。
 169およそ 探偵作家 という もの は ……
 170( 記者 に 向っ て ) これ は 特筆大書 し て もらい たい な
 171江戸川さん しかり 、 大下宇陀児君 しかり 。
 172みんな 女学校 の 校長 に し て も いい 人たち ばかり だ 。
 173エロっぽい 絵 を 描い た 歌麿 が ガマガエル みたい な 男 だっ た そう で 、 男っぷり の いい の に は 色っぽい 小説 が 書け ない の と 同然 、 奇々怪々 な 作品 を 書く 人 は みんな 善良 な 男 らしい 。
 174江戸川
 175怪奇 な もの を 書く ぼく は いい 男 という こと に なる か な ?
 176ハッハッハ 。
 177レコード道楽 の 方 は どう なっ て いる ?
 178( 野村氏 は 「 あらえびす 」 の 別名 で レコード音楽 について 書い て いる 。
 179日本有数 の 権威者 で ある )
 180英訳出来なかった平次捕物控
 181野村
 182蒐集 し た レコード を 保存 する の に 鉄筋コンクリート の 倉庫 でも 建て たい と 思っ て いる ん だ が …… 。
 183毎年 一 ぺん は 手いれ を し ない と レコード は 傷む し 、 手いれ を する と なる と 半 日 ずつ 仕事 を する と し て 、 五 人 で 半 年 かかる 。
 184あなた の 徳川時代 の 軟派もの の 蒐集 だって たいした もの だ よ 。
 185西鶴 の オリジナル を そろえ て 持っ て いる 人 って い ない よ 。
 186江戸川
 187ああいう 蒐集 は 案外 金 が かから ん で ね 。
 188今 は 国産的 な もの は 安い 。
 189野村
 190コレクション は あと が 楽しみ で ね 。
 191今 は あんまり レコード も 聞か ん けど 、 専門家 が 訪ね て くる と 、 聞かせる こと に し て いる 。
 192今日 も 今ごろ 二 組 家 へ き て いる はず だ 。
 193江戸川
 194おたがい だんだん 年 を とっ て いく が 、 作品 の 主人公 は いつ まで も 若い ね 。
 195野村
 196銭形平次 は 何 年 経っ て も 三十 だ 。
 197年 を とら せる と 失敗 する よ 。
 198歯 の 抜け た オヤジ に なっ て しまっ た ん じゃア …… 。
 199一 ぺん お静 ( 平次 の 女房 ) を 妊娠 さ せ た こと が ある が 、 その 後 子供 の 出る 作品 は 書い て ない 。
 200どうやら あれ は 流れ た らしい 。
 201ハッハッハ 。
 202平次 も はじめ は 元禄時代 に し て 書い た ん だ が ね 。
 203次第に 書き にくく なっ て 、 今 は 化政度 の つもり で 書い て いる 。
 204江戸川
 205ぼく は 自分 の 短篇 の 英訳 を 自費出版 し ょう と 思っ て ね 。
 206「 心理試験 」 「 人間椅子 」 「 双生児 」 といった もの を ハリス という 人 が 訳し て くれ た 。
 207間もなく 出せる と 思う 。
 208野村
 209いつ か わたし の 捕物帖 を 訳す ん だ と いっ て アメリカ人 が 持っ て いっ た が 、 とても ダメ です 、 と いっ て き た 。
 210英語 に なら ん らしい 。
 211だいいち 親分 という 言葉 が ない 。
 212ボス で は 困る し …… 。
 213ハッハッハ 。