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aozora_Sakaguchi-1950のコンテキスト表示

title Ango Koudan (01. mayaku, jisatsu, shuukyou)
author Sakaguchi, Ango
date 1950
source Aozora Bunko (https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card43172.html)
genre essay
subcorpus Aozora Bunko
terms of use Creative Commons license


 1安吾巷談
 2麻薬・自殺・宗教
 3坂口安吾
 4伊豆 の 伊東 に ヒロポン屋 という もの が 存在 し て いる 。
 5旅館 の 番頭 に さそわ れ て ヤキトリ屋 へ 一 パイ のみ に 行っ て 、 元 ダンサー という 女中 を 相手 に のん で いる と 、 まッ黒い フロシキ包み ( 一 尺 四方 ぐらい ) を 背負っ て はいっ て き た 二十五六 の 青年 が ある 。
 6女中 が ついと 立っ て 何 か 話し て い た が 、 二人 で トントン 二 階 へ あがっ て いっ た 。
 7三 分 ぐらい で 降り て 戻っ て き た が 、 男 が 立ち去る と 、 「 あの 人 、 ヒロポン 売る 人 よ 。 一 箱 百 円 よ 。 原価 六十何 円 か だ から 、 そんな に 高く ない でしょ 」 と いう 。
 8東京 で は 、 百二十 円 から 、 百四十 円 だ そう で ある 。
 9ヒロポン屋 は 遊楽街 を 御用聞き に まわっ て いる の で ある 。
 10最も 濫用 し て いる の は ダンサー だ そう で 、 皮下 で は 利き が わるい から 、 静脈 へ 打つ の だ そう だ 。
 11「 いま 、 うっ て き た の よ 」 と 云っ て 、 女中 は 左腕 を だし て 静脈 を みせ た 。
 12五六 本 、 アト が ある 。
 13中毒 という ほど で は ない 。
 14ダンサー時代 は よく 打っ た が 、 今 は 打た なく とも い られる 、 睡気ざまし じゃ なくて 、 打っ た トタン に 気持 が よい から 打つ の だ と 言っ て い た 。
 15この 女中 は 、 自分 で 静脈 へ うつ の だ そう だ 。
 16「 たいがい 、 そう よ 。
 17ヒロポン の 静脈注射 ぐらい 、 一人 で やる の が 普通 よ 。
 18かえって 看護婦あがり の 人 なんか が ダメ ね 。
 19人 に やっ て もらっ てる わ 」
 20そう かも知れない 。
 21看護婦 と も なれ ば ブドウ糖 の 注射 でも 注意 を 集中 し て やる もの だ 。
 22ウカツ に 静脈注射 など 打つ 気持 に は なれ ない かも知れない 。
 23織田作之助 は ヒロポン注射 が 得意 で 、 酒席 で 、 にわか に 腕 を まくりあげ て ヒロポン を うつ 。
 24当時 の 流行 の 尖端 だ から 、 ひと つ は 見栄 だろう 。
 25今 の よう に 猫もシャクシも やる よう に なっ て は 、 彼 も やる気 が し なかっ た かも知れぬ 。
 26織田 は ヒロポン の 注射 を うつ と 、 ビタミンB を うち 、 救心 を のん で い た 。
 27今 で も この 風俗 は 同じ こと で 、 ヒロポン ・ ビタミン ・ 救心 。
 28妙 な 信仰 だ 。
 29しかし 、 今 の 中毒患者 は ヒロポン代 で 精一パイ だ から 、 信仰 は 残っ て いる が 、 めった に 実行 は さ れ ない 。
 30「 ビタミンB うっ て 救心 のむ と 、 ほんと は 中毒 し ない ん だ けど 」 など ゝ 、 中毒 の 原因 が そッち の 方 へ 転嫁 さ れ て いる 有様 で ある 。
 31救心 という 薬 は 味 も 効能 も 仁丹 ぐらい に しか 思わ れ て ない が 、 べラボー に 高価 な ところ が 信仰 さ れる の かも知れない 。
 32しかし 織田 が 得々 と うっ て い た ヒロポン も 皮下注射 で 、 今日 で は まったく 流行おくれ な の で ある 。
 33第一 、 うつ 量 も 、 今日 の 流行 に くらべる と 問題 に なら ない 。
 34私 は 以前 から 錠剤 の 方 を 用い て い た が 、 織田 に すすめ られ て 、 注射 を やっ て み た 。
 35注射 は 非常 に よろしく ない 。
 36中毒 する の が 当然 な の で ある 。
 37なぜなら 、 うっ た トタン に 利い て くる が 、 一 時間 も たつ と 効能 が うすれ て しまう 。
 38誰 しも 覚醒剤 を 用いる 場合 は 、 もっと 長時間 の 覚醒 が 必要 な 場合 に きまっ て いる から 、 日 に 何 回 となく 打た なけれ ば なら なく なっ て 、 次第に 中毒 し て しまう 。
 39錠剤 の 方 は 一 日 一 回 で たくさん だ 。
 40ヒロポン の 錠剤 は 半 日 持続 し ない が 、 ゼドリン は 一 日 ちかく 持続 する 。
 41副作用 も ヒロポン ほど で なく 、 錠剤 を 用いる なら 、 ゼドリン の 方 が はるか に よい 。
 42錠剤 は 胃 に 悪く 、 蓄積 する から 危険 だ と いう が 、 これ は ウソ で 、 胃 に 悪い と いっ て も 目立つ ほど で なく 、 煙草 に くらべれ ば 、 はるか に 胃 の 害 は すくない 。
 43蓄積 という 点 も 、 私 は アルコール を 用い て 睡っ た せい か 、 アルコール に は 溶解 し 易い そう で 、 その せい か 蓄積 の 害 は あんまり 気付か なかっ た 。
 44私 の 仕事 の 性質 として 、 一 週間 か 十 日 は 連続 し て 服用 する 必要 が ある 。
 45あと 三四 日 は 服用 を やめ て 休息 する 。
 46すると 連続服用 の あと は 、 服用 を やめ て から も 二 日間 ぐらい は 利い て いる 。
 47その 程度 で あっ た 。
 48しかし 私 の 場合 は ウイスキー を のむ から 、 これ に 溶け て ハイセツ さ れ て 蓄積 が 少い という こと も 考え られ 、 ウイスキー を のま ない 人 の 場合 の こと は わから ない 。
 49精神科 の お医者さん の 話 で も 、 あれ を 溶解 ハイセツ する に は ウイスキー が いちばん よい らしい と の こと で 、 私 の 経験 によって も 、 錠剤 を 用いる 限り は 、 ウイスキー を のん で 眠っ て 、 十 日 の うち 三 日 ぐらい ずつ 服用 を 中止 し て いる と 、 殆ど 害 は ない よう だ 。
 50又 、 服用 の 量 も 、 累進 する という こと は ない 。
 51これ は 多分 に 気 の せい が あっ て 、 昨日 より も 余計 のま ない と 利か ない よう な 気 が する だけ だ 。
 52ただ 、 実際 、 利か ない 場合 が 一 度 だけ ある 。
 53それ は 三四 日 服用 を 中止 し た のち 、 改めて 服用 し はじめ た 第一 日目 で 、 この 時 だけ は 、 なかなか 利か ない 。
 54つまり 蓄積 が きれ て いる せい だろう 。
 55したがって 、 その 反対 に 、 蓄積 すれ ば 小量 のん で 利く こと が 成り立つ わけ で 、 事実 その 通り な の で ある 。
 56だから 、 第一 日目 だけ 、 当人 の 定量 より 多い 目 に のむ 必要 が ある が 、 翌日 は もう 定量 で よく 、 三 日目 、 四 日目 は 定量 以下 へ 減らし て も 利く 。
 57多く の 人 は 、 この こと を 御存じ ない 。
 58どう し て も 定量 、 又は 定量 以上 のむ 必要 が ある と 思いこん で いる の で ある 。
 59私 の 場合 で 云う と 、 私 は ゼドリン の 二 ミリ の 錠剤 を 七 ツ ぐらい ずつ のむ 習慣 だっ た 。
 60一 ミリ なら 十四 の わけ だ が 、 どう も 、 二 ミリ 七 ツ の 方 が 利く よう で ある 。
 61これ は 製造元 で たしかめる と 分る だろう 。
 62二 ミリ 七 ツ という の は 普通 の 定量 より 倍量 ちかく 多い が 、 しかし 、 私 は 四五 年 も つづけ て い て 、 これ で 充分 だっ た の で ある 。
 63織田 にしても 日 に 最低 三十 ミり は 注射 し て い た し 、 現在 ダンサー の 多く は 三十 ミリ の 注射 ぐらい 、 朝メシ前 という 状態 で ある 。
 64注射 だ と 、 どう し て も 、 そう なり やすい 。
 65私 は 七 ツ の 定量 の ところ 、 第一 日目 だけ 、 九 ツ のむ 。
 66二 日目 は 七 ツ で よく 、 三 日目 、 四 日目 は 、 六 ツ 、 五 ツ と 下げ 、 四 ツ で すむ こと も あっ た 。
 67利か なかっ たら 、 また のめ ば よい の だ から 、 はじめ は 小量 で ためし て みる こと が カンジン で 、 覚醒剤 は 累進 し て 用い ない と 利か ない という 信仰 を 盲信 し て は いけ ない の で ある 。
 68したがって 、 私 は 覚醒剤 の 害 という もの を 経験 し た こと は なかっ た 。
 69害 の ひどい の は 催眠薬 だ 。
 70
 71私 は アドルム という 薬 を のん で 、 ひどく 中毒 し た が 、 なぜ アドルム を 用い た か と いう と 、 いろいろ の 売薬 を のん で み て 、 結局 これ が 当時 として は 一番 きい た から で ある 。
 72今日 で は 、 もっと 強烈 な の が ある らしい が 、 私 は アドルム中毒 で こり て 、 ほか の 素性 の 正しい 粉末催眠薬 を 三 種類 用い て 、 みんな 、 また 、 中毒 し た 。
 73現在 日本 の 産業界 は まだ 常態 で は ない ので 、 みんな 仕事 に 手 を ぬい て いる 。
 74当然 除去 し うる 副作用 の 成分 を 除去 する だけ の 良心的 な 作業 を 怠っ て いる わけ で 、 それ で 中毒 を 起し 易い の だ そう だ 。
 75しかし 、 当今 は 乱世 で 、 副作用 など は どう でも よく 、 手ッ取りばやく 利け ば いい 、 という お客 の 要求 が 多い から 、 益々 、 副作用 を 主成分 に し た よう な 催眠薬 が 現れる 。
 76一 粒 のむ と 、 トタン に 酩酊状態 に おちいる よう な 魔法 の 薬 が 現れる の で ある 。
 77人 は なぜ 催眠薬 を のむ か 、 といえば 、 この バカヤロー 、 ねむる ため に きまッ て らい 、 と 叱ら れる だろう が 、 当今 は 乱世 だ から 、 看板通り に いか ない 。
 78私 の 場合 は 覚醒剤 を のん で 仕事 し て 、 ねむれ なくて ( 疲労 が 激しく なっ て アルコール だけ で は 眠れ なく なっ た ) 仕方がない ので 、 ウイスキー と アドルム を のん でる うち に 中毒 し た 。
 79この アドルム は 、 ヒロポン の 注射 と 同じ よう に 、 のむ と すぐ 利く 、
 80しかし 、 すぐ 、 さめる 。
 81一二 時間 で さめる 。
 82そこで 一 夜 に 何 回 も のむ よう に なっ て 、 中毒 する よう に なる の で ある 。
 83しかし 、 中毒 する ほど 、 のん で みる と 、 この 薬 の 作用 が 、 人 を 中毒 に さそう よう な 要素 を 含ん で いる こと が 分っ て くる 。
 84田中英光 は ムチャクチャ で 、 催眠剤 を 、 はじめ から 、 ねむる ため で は なく 、 酒 の 酔い を 早く 利か せる ため に 用い て い た 。
 85この 男 の 苦心 は 察する に 余り が ある 。
 86あれ ぐらい の 大酒飲み は 、 いくら 稼い で も 飲み代 に 足り ない から 、 いかにして 早く 酔う か という 研究 が 人生 の 大事 と なる の で ある 。
 87この 男 は 乱世 の 豪傑 の シンボル で 、 どれ ぐらい 酒 を 飲ん だ か 、 という こと が 分ら ない と 、 彼 の 悲痛 な 心事 は 分ら ない よう だ 。
 88この 男 が 、 二 年 ほど 前 、 私 が 熱海 で 仕事 を し て い た とき 、 女の子 を つれ て 遊び に 来 て 、 三 日 泊っ て 行っ た こと が ある 。
 89朝 、 一しょ に のむ 。
 90私 が 一睡り し て 目 を さます と 、 彼 は 私 の 枕元 で 、 まだ 飲ん で いる 。
 91仕方がない から 、 私 も 一風呂 あび て き て 、 また 相手 を する と 、 酔っ払っ て 、 ねむく なる 。
 92又 、 ねむる 。
 93目 を さます と 、 もう 、 とっぷり 夜 に なっ て い て 、 私 の 枕元 で は 、 益々 酒宴 は タケナワ と なっ て いる の を 発見 する の で ある 。
 94仕方がない から 、 また 相手 に なっ て 、 ねむたく なっ て 、 「 オイ 、 もう 、 とても ダメ だ から 、 君 は 君 の 部屋 へ ひきあげ て 、 のん で くれ よ 」 と 云う と 、 「 ヤ 、 そう です か 。 じゃア 、 ウイスキー もらっ て 行き ます 。 それから 、 奥さん に 来 て いただい て いゝ です か 」 と いっ て 、 田中 と 女 二人 が 行っ て しまう 。
 95田中 の 部屋 で は 、 田中 と 女 二人 で トランプ を し て 、 その 間中 、 田中 は ウイスキー と ビール を 呷り つゞけ て いる の で ある 。
 96ロスアンゼルス出場 の オリムピック・ボート選手 、 六 尺 、 二十 貫 。
 97彼 は 道々 歩き ながら ウイスキー を ラッパのみ に する の が 日常 の 習慣 で 、 したがって 、 コップ に 波々 と つい だ ウイスキー を 、 ビール の よう に ガブガブ のむ 。
 98私 は 胃 が 悪い ので 、 小量 で 酔う 必要 が あっ て 、 ウイスキー を のん で い た が 、 あの 当時 は 、 熱海 に は ウイスキー が ない ので 、 東京 の 酒場 から ウイスキー と タンサン を 運ん で もらっ て おり 、 いつも 一 ダース ぐらい ずつ ストック が あっ た 。
 99その ストック を 田中英光 は 三 日間 で 完全 に 飲みあげ て しまっ た の で ある 。
 100田中 と 飲ん で いる と 、 まったく ハラハラ する 。
 101貴重 なる ウイスキー が ビール の よう に 目 に 見え て グングン 減る から で ある 。
 102三十 分 と たゝ ない うち に 、 一 本 カラ に なる 。
 103ウソ みたい で ある 。
 104本当 だ から 、 尚 、 なさけない 。
 105私 が 旅館 を ひきあげる とき 、 勘定 を 支払う 時 に 、 また 驚い た が 、 田中 は 私 の ウイスキー を のみほし た ほか に 、 ビール 二 ダース と 日本酒 の 相当量 を のみほし て い た の で ある 。
 106これ は みんな 、 私 の 部屋 から 追ッ払わ れ て 、 自分 の 部屋 へ ひきあげ て から 、 寝酒 に のん だ の だ 。
 107眠っ て いる 時間 の ほか は 完全 に 酒 を のみ つゞけ て おり 、 私 の ところ へ 来 た 時 ばかり で は なく 、 概ね 彼 の 日常 が そう で あっ た らしい 。
 108一 日 に 三四 本 の ウイスキー を 楽々 カラ に し て 、 ほか に ビール も 日本酒 も のむ 胃袋 で ある から 、 彼 が いくら 稼い で も 、 飲み代 に は 足り なかっ たろ う 。
 109いかにして 早く 酔う か という こと が 、 彼 の 一大事 で あっ た の は 当然 だ 。
 110そこで 催眠薬 を 酒 の 肴 に ポリポリ かじる という 手 を 思いつい た の は アッパレ で ある が 、 これ は 、 どう し て も 田中 で ない と 、 でき ない 。
 111今 、 売りださ れ て いる カルモチン の 錠剤 。
 112五十 粒 ぐらい 飲ん で も 眠く なら ない し 、 あれ は 無味無臭 で 、 酒 の 肴 として も 、 うまく は ない が 、 まずい こと も ない 。
 113田中 が カルモチン を 酒 の 肴 に かじっ て いる と きい た とき は 驚か なかっ た が 、 カルモチン で は 酔わ なく なっ て 、 アドルム に し た という 話 に は 驚い た 。
 114あの 男 以外 は 、 めった に 、 でき ない 芸当 で ある 。
 115アドルム は 、 のむ と 、 すぐ 、 ねむく なる 。
 116第一 、 味 の 悪い こと 、 吐き気 を 催す ほど で ある が 、 田中 は 早く 酔う ため に は 、 なん でも いい 主義 で あっ た らしい 。
 117それにしても 、 酒 の 肴 に アドルム を かじる こと が 可能 で ある か 、 どう か 。
 118まア 、 いっぺん 、 ためし て 、 ごらん なさい 。
 119そう し ない と 、 この 乱世 の 豪傑 の 非凡 な 業績 は 分ら ない 。
 120この 一二 年 、 田中 が 書きなぐっ て いる 私小説 に 現れ て くる 飲みっぷり の 荒っぽさ は 、 けっして 誇張 で なく 、 むしろ 書き足り て い ない の で ある 。
 121事実 の 方 が もっと シタタカ 酒 を のん で い た 。
 122あの 男 が 、 六 尺 、 二十 貫 の からだ に コップ を ギュッと にぎりしめ て 、 グビリグビリ と ビール の よう に ウイスキー を のみへらす の を 見る と 、 とても この 豪傑 と 一しょ に 酒 は 飲め ない という 気持 に なる 。
 123こうして 朝 から 夜中 まで 五 軒 でも 十 軒 でも まわる 。
 124ともかく 、 いくら か 太刀打ち でき た の は 郡山千冬 で 、 この 男 も 、 五 日 で も 十 日 で も 目 を 醍し て いる 限り は 酒 を のん で い られる 。
 125しかし 酒量 に於て は 田中 の 半分 に は 達し ない 。
 126最後 まで ツキアイ が でき た 悲しさ に 、 田中 の 小説 の 中 で いつも 悪役 に 廻っ て 散々 な 目 に あわさ れ て いる が 、 田中 の 小説 は 郡山 に 関する 限り 活写 さ れ て は いる 、
 127しかし 、 田中 自身 が 活写 さ れ て い ない から ダメ で ある 。
 128両雄 相からみ 相もつれる に 至っ た 大本 の ネチネチ し た 来由 、 それ は ツマラヌ 酒屋 の 支払い の 百 円 二百 円 に ある こと で 、 三 銭 の 大根 を 十 銭 だし て 買っ て オツリ が 一 銭 足り なくて 、 オカミサン が 八百屋 に 恨み を 結ぶ に 至る という よう な 、 それ と 全く 同じ 程度 に すぎ ない 俗 な 事情 に ある こと を 、 彼 は 彼 自身 の 場合 に於て は 、 その 俗 の まま 書く こと を 全く 忘れ て いる 。
 129ただ 相手 の こと だけ 書い て いる の で ある 。
 130こういう 田中 だ から 、 友達 が でき なかっ た の は 仕方がない 。
 131自分 だけ 人 に 傷け られ てる と 思っ て いる の だ から 、 始末 が わるい 。
 132女 を 傷害 し て 、 その 慰藉料 という こと で 、 彼 は 悪戦苦闘 し て い た そう だ が 、 こういう こと は 友達 に たのめ ば 一番 カンタン で 、 友達 という もの は 、 こういう 時 の ため に 存在 する よう な もの で ある 。
 133我々 文士 など ゝいう もの は 、 人 の こと は できる が 自分 の こと は でき ない 。
 134人 の 借金 の 言い訳 は できる が 、 自分 の 借金 の 言い訳 は でき ない 。
 135福田恆存 が 税務署 へ 税金 を まけ て もらい に 行こ う と し たら 、 隣家 の 高田保 が 、 「 自分 の 税金 の こと は 云い にくい もの だ から 、 ボク が 行っ て き て あげ よう 」 と 、 たのみ も し ない のに 、 こう 言っ て 出かけ て くれ た そう だ 。
 136さすが に 保先生 は 達人 で 、 まったく 、 保先生 の 云う 通り の もの な の で ある 。
 137困っ た 時 に は 友達 に たのむ に 限る 。
 138私 が 二 度目 の 中毒 を 起し た とき 、 私 は 発作 を 起し て いる から 知ら なかっ た が 、 女房 の 奴 、 石川淳 と 檀一雄 に 電報 を 打っ て 、 き て もらっ た 。
 139ずいぶん 頼りない 人 に 電報 を うっ た もの だ が 、 これ が 、 ちゃんと 来 て くれ て 、 檀君 は 十 日 も かかり きっ て 、 せっせと 始末 を し て くれ た の だ から 、 奇々怪々 で ある が 、 事実 は まげ られ ない 。
 140平常 は 、 この 人たち ほど 、 頼り に なら ない 人 は ない 。
 141檀一雄 は 、 私 と 約束 し て 、 約束 を 果し た こと は 一 度 も ない 。
 142たぶん 、 完全 に 一 度 も ない が 、 本当 に 相手 が 困っ た 時 だけ 寝食 忘れ て やりとげる から 妙 だ 。
 143田中英光 の 場合 は 、 友だち に 頼め ば 、 なん でも なかっ た の で ある 。
 144その 友だち が 居 なかっ た 。
 145私 自身 が 田中 と 同じ 中毒 を 起こし た こと が ある から 、 よく 分る が 、 孤独感 に 、 参る の で ある 。
 146ほか に 理由 は ない が 、 孤独感 から 、 ツイ 生き きれ ない 思い で 、 一思い に 死に たく なる 。
 147その 誘惑 と は 私 も ずいぶん 、 たゝかっ た 。
 148一 度 、 本当 に 死ぬ つもり に なっ た こと が ある 。
 149その とき は 、 女房 が 郡山千冬 に 電報 を うっ て 来 て もらっ て 、 どう やら 一時 を しのい だ が 、 それ 以来 、 発作 の 時 は 親しい 人 を よぶ に 限る こと に 女房 が 気付い て 、 二 度目 の 時 に は 石川淳 と 檀一雄 に 来 て もらっ た の で ある 。
 150そして 、 渡辺彰 、 高橋正二 という 二人 の 青年 を 泊りこま せ 、 その 他 、 八木岡英治 や 原田裕 や に 、 夜昼 見廻り に 来 て もらう という よう な 、 巧妙 な 策戦 を 考え て くれ た 。
 151そうして 私 が 気がつい た とき 、 私 は 伊東 に 来 て おり 、 私 の 身辺 に 、 四五 人 の 親しい 人たち が 泊り こん で いる の を 発見 し た 。
 152結局 中毒 など という もの は 、 入院 し て も ダメ で ある 。
 153一種 の 意志薄弱 から 来 て いる こと で ある から 、 入院 し て 、 他 から の 力 や 強制 で 治し て み て も 、 本来 の 意志薄弱 を 残し て おく 限り は 、 どう にも なら ない 。
 154入院療法 は 、 治る という こと に 狎れ させる ばかり で 、 たいがい 再中毒 を やらかす の は 当然 だ 。
 155結局 、 自分 の 意志力 によって 、 治す 以外 に 仕方 が ない 。
 156私 は 伊東 で その こと に 気付い た から 、 あくまで 自分 で 治し て みせる 決意 を たて た が 、 しかし 、 自由意志 に まかせ て おい て 中毒 の 禁断苦 と 闘う の は 苦痛 で 、 大決意 を かため ながら も 、 三 回 だけ 、 藤井博士 から 催眠薬 を もらっ た 。
 157二 度 は きか なくて 、 三 度目 に 、 特に オネダリ し て 強烈 な 奴 を もらっ た が 、 それ だけ で ガンバッ て 、 とうとう 禁断 の 苦痛 を 通過 し 、 自分 で 退治る こと が でき た 。
 158今 は もう 、 一切 薬 を 用い て い ない 。
 159病院 へ 入院 し 、 強制的 に 薬 を 中絶 さ れ た 場合 に は 、 私 の よう に 三 度 オネダリ する こと も 不可能 で 、 完全 に 一 度 も 貰え ない の で ある が 、 自分 の 自由意志 によって 、 そう なる の で は ない から 、 ダメ な の で ある 。
 160だから 精神病院 の 療法 は この 点 に 注意 する 必要 が あっ て 、 二 度 や 三 度 は 薬 を 与え て も 、 患者 の 自由意志 によって 治さ せる よう な 方向 に 仕向ける こと を 工夫 する と 、 中毒 の 再発 は よほど 防ぐ こと が できる の で は ない か と 思う 。
 161これ は 中毒 のみ で は なく 、 精神病全般 について 云える こと で 、 分裂病 など で も 、 あるいは 自覚的 に リード できる 可能性 が ある の で は ない か という 気 が する の で ある 。
 162とにかく 、 精神病 ( 中毒 も そう だろう ) という もの は 、 親しい 友だち に 頼む に 限る 。
 163私 は 幸い 、 女房 が 石川淳 と 檀一雄 を よん で 急場 を しのい で もらっ て 、 その 後 も 適当 の 方策 を めぐらし て くれ た ので 、 伊東 へ き て 、 大決意 を する こと が でき た 。
 164私 の 中毒 に くらべる と 、 身体 が いい せい も あっ て 田中英光 は 、 決して 、 それ ほど 、 ひどい 衰弱 を し て は い ない 。
 165彼 は 一人 で 、 旅行 も し 、 死ぬ 日 まで 東京 せまし と とび歩き 、 のみ廻っ て い た ほど だ 。
 166私 ときては 、 歩行 まったく 困難 、 最後 に は 喋る こと も でき なく なっ た 。
 167田中英光 の よう に 、 秋風 の 身 に しむ 季節 に 、 東北 の 鳴子温泉 など ゝいう ところ へ 、 八 ツ ぐらい の 子供 を つれ て 、 一人 ションボリ 中毒 を 治し 、 原稿 を 書く べく 苦心悪闘 し て い た の では 、 病気 は 益々 悪化 し 、 死に たく なる の は 当りまえ だ 。
 168孤独 に さ せ て おけ ば 、 たいがい の 中毒病者 は 自殺 し て しまう に きまっ て いる 。
 169しかし 私 の よう に 、 意志 によって 中毒 を ネジふせ て 退治 する という の は 、 悪どく 、 俗悪 きわまる 成金趣味 の よう な もの で 、 素直 に 負け て 死ん で しまっ た 太宰 や 田中 は 、 弱く 、 愛す べき 人間 と いう べき かも知れない 。
 170田中 の 場合 が そう で ある が 、 催眠薬 は ねむる ため だ と 思う と そう で なく 、 酩酊 の ため だ 。
 171そして 、 この こと は 、 案外 一般 に は 気付か れ ずに 、 しかし 多く の 人々 が 、 その 酩酊状態 を 愛する こと によって 、 催眠薬中毒 と なっ て いる よう で ある 。
 172私 自身 も 、 自分 で は 眠る ため だ と 思っ て い た が 、 いつ から か 、 その 酩酊状態 を 愛する よう に なっ て い た 。
 173催眠薬 は 、 一般 に 、 すべて 酩酊状態 に 似 た 感覚 から 眠り に 誘う が 、 アドルム は 特に ひどい 。
 174先ず 目 が まわる 。
 175目 を ひらい て 天井 を 見れ ば 天井 が ぐるぐる まわっ て いる 。
 176私 は 中学生 の ころ 、 はじめて 先輩 に 酒 を のま せ られ て 、 いきなり 部屋 が グル/\ 廻り だし た ので ビックリ し た が 、 そんな こと は 酒 の 場合 は 二 度 と は ない 。
 177ところが 、 アドルム は 、 常に そう だ 。
 178私 は 若い ころ スポーツ で 鍛え た せい か 、 足腰 が シッカリ し て い て 、 酒 を のん で も 、 千鳥足 という こと が 殆ど ない 。
 179ところが 、 アドルム は 、 テキメン に 千鳥足 に なる 。
 180頭 の 中 の 感覚 が 、 酒 の 酩酊 と 同じ よう に モーロー と カスン で くる の で ある が 、 酒 より 重く ネットリ と 、 又 、 ドロン と 澱み の よう な もの が でき て 、 酒 の 酩酊 より も コンゼン たる 経過 を 経験 する 。
 181睡眠 に 至る この 酩酊 の 経過 が 病みつき と なり 、 それ を 求める ため に 次第に 量 を ふやし て 、 やがて 、 中毒 という こと に なる らしい 。
 182私 は そう だっ た 。
 183いったん 中毒 し て しまう と 、 非常 に 好色 に なり 、 女 が やたら に 綺麗 に 見え て 、 シマツ に おえ なく なる 。
 184これ は 中毒 に なっ て から 起る こと で 、 単に アドルム を のん でる うち は 、 こう は なら ない 。
 185私 は 単に 睡る ため に アドルム を 用い 、 常に 眠り を 急い で その 為 のみ に 量 を ふやす 始末 で あっ た から 、 気がつか なかっ た が 、 アドルム を のむ と 愛撫 の 時間 が 延びる と いう 。
 186これ は 田中 が 書い て いる 。
 187田中 は 睡る ため で なく 、 酔う ため に のん だ アドルム だ から 、 そういう 経験 に 気付い た の であろう が 、 あの 薬 の 酩酊状態 は アルコール と 同じ で 、 アルコール より も 強烈 な の だ から 、 そういう 事実 が 起る の は 当然 かも知れない 。
 188ある 若い 作家 の 小説 に も 、 たくましい 情人 に 太刀打ち する のに アドルム 一 錠 ずつ のむ という の が あっ た が 、 してみると 、 その 効能 は 早く から 発見 さ れ て 、 ひろく 愛用 さ れ て いる の かも知れない 。
 189先日 、 田中英光 の 小説 を 読ん で 感 これ を 久う し た 含宙軒師匠 が ニヤリニヤリ と 、 フウム 、 あの 薬 を のむ と 、 勃起 し ます か なア 、 と お訊き に なっ た が 、 勃起 は どう でしょう か 。
 190私 は 中毒 する まで 気がつか なかっ た 。
 191完全 な 中毒 に 至る と 、 一 日中 、 勃起 し ます 。
 192しかし 、 もう その 時 は 、 歩行 に 困難 を 覚え 、 人 の 肩 に つかまっ て 便所 へ 行く よう な ひどい 中毒 に なっ て から で 、 これ で は 差引勘定 が 合わ ない 。
 193人 の 肩 に つかまっ て 歩き ながら 、 アレ だけ は 常に 勃起 し て いる という の は 、 怪談 です よ 。
 194病院 へ いっ て 治せる なら 、 すぐ に も 、 入院 し たい と 思う 。
 195又 、 事実 、 中毒 という もの は 持続睡眠療法 で きわめて カンタン に 治っ て しまう 。
 196鉄格子 の 部屋 へ いれ て 、 ほッたらかし て おい て も 、 自然 に 治る 。
 197けれども 、 カンタン に 治し て もらえる という の は 、 カンタン に 再び 中毒 する こと ゝ 同じ こと で 、
 198眠り たい から 薬 を のむ 、
 199中毒 し た から 入院 する 、
 200まこと に 二 つ ながら 恣意的 で 、 こう ワガママ で は 、 どこ まで 行っ て も 、 同じ くりかえし に すぎ ない 。
 201この 恣意的 な ところ が 一番 よく 似 て いる の は 宗教 で ある 。
 202中毒 に 多少 とも 意志的 な ところ が ある と すれ ば 、 眠り たい から 催眠薬 を のみ たい 、 苦しい から 精神病院 へ 入院 し たい 、 という ところ だけ で ある が 、 人 が 宗教 を 求める 動機 も 同じ こと だ 。
 203どんな 深遠らしい 理窟 を こね て も 、 根 を たゞせ ば 同じ こと で 、 意志力 を 失っ た 人間 の 敗北 の 姿 で ある こと に は 変り は ない 。
 204教祖 は みんな インチキ か と いう に 、 そう で も なく 、 自分 の 借金 の 言い訳 は むつかしい が 、 人 の 借金 の 言い訳 は やり 易い と 同じ よう な 意味 に於て 、 教祖 の 存在理由 という もの は ハッキリ し て いる の で ある 。
 205教祖 と 信徒 の 関係 は 持ちつ持たれつ の 関係 で 、 その 限り に於て 、 両者 の 関係 自体 に インチキ な ところ は ない 。
 206たゞ 意志力 を 喪失 し た 場合 のみ の 現象 で 、 中毒 と 同じ 精神病 で ある ところ に 欠点 が ある だけ だ 。
 207麻薬 や 中毒 は 破滅 とか 自殺 に 至っ て 終止符 を うた れる が 、 宗教 は ともかく 身 を 全う する こと を 祈願 と し て 行わ れ て いる から 、 その 限り に於て 健全 で ある が 、 ナニ 麻薬 や 中毒 だって 無限 に 金 が あり さえ すれ ば 、 末長く 酔生夢死 の 生活 を たのしん で い られる はず 、
 208本質的 な 違い は ない 。
 209両者 ともに 神 を 見 、 法悦 に ひたっ て も い られる の で ある 。
 210精神的 な 救い か 、 肉体的 な 救い か 。
 211肉体的 な 救い など ゝいう もの は 、 空想上 のみ の 産物 で 、 現世 に 実存 する もの で は ない 。
 212しかし 、 精神的 な 救い を 過度 に 上位 に おく の も 軽率 の 至り で 、 ある とすれば 無為 の 境涯 が ある だけ だ 。
 213救い など ゝいう もの は ない 、
 214こう 自覚 する こと が 麻薬中毒 を 治す 第一 課 で 、 精神病院 へ 入院 し て も ダメ 、 こと 精神 に関して は 、 自分 の 意志 で 支配 し て 治す 以外 に 法 が ない と さとる 。
 215救い は 実在 し ない こと 、
 216自分 の 力 で 生き ぬく 以外 に 法 が ない と 知っ て 、 お光り様 へ 出かけ て 行く バカ は い ない 。
 217もっとも 、 ヒヤカシ 、 という の は ある 。
 218アソビ 、 という の も ある 。
 219徒然 だ し 、 野球 や タマツキ や 三角クジ も あき た し 、 ひと つ お光り様 と 遊ん で み よう 、 と いう 。
 220これ は 甚だ 健康 だ が 、 しかし 、 ヒロポン中毒 の ダンサー や 浮浪児 など も 、 もとはといえば 、 そういう 健全娯楽 の 精神 で イタズラ を はじめ て 、 中毒 し て しまっ た の で ある 。
 221宗教 に も これ が 非常 に 多い の で ある 。
 222まア 徒然 だ し 、 人 に さそわ れ て 、 退屈しのぎ に ヒヤカシ に でかけ て 行く うち に 、 宗教中毒 し て しまう 。
 223麻薬中毒 が 、 ヒロポン から コカイン へ 、 アヘン から 催眠薬 へ 、 又 ヒロポン へ という よう に 、 相手 は なん でも いゝ から 中毒 すれ ば よい という 麻薬遍歴 を 起す と 同じ よう に 、 宗教 の 場合 も 大本教 から 人 の 道 へ ジコー様 へ お光り様 へ という よう に 宗教遍歴 を 起す 。
 224すべて 同一系列 の 精神病者 と 思え ば マチガイ は ない 。
 225いったい 、 この世 に 精神病者 で ない もの が 実在 する か 、 と いう と 、 これ は むつかしい 問題 で 、 実在 し ない と 云う 方 が 正しい かも知れない 。
 226程度 の 問題 だ から だ 。
 227すべて の 人間 が 犯罪者 で あり うる よう に 、 精神病者 で あり うる 。
 228麻薬中毒 と 宗教中毒 は 、 アリウル の 世界 を すぎ て 、 アル の 世界 に 到達 し た 場合 で 、 精神病院 へ 入院 し て みる と 、 病室 は 概して 平和 で 、 患者 は つつましく 生活 し て おり 、 麻薬中毒 や 宗教中毒 の よう な 騒音 は すくない 。
 229麻薬中毒 も 幻視 幻聴 が 起きる が 、 宗教中毒 も そう で ある 。
 230私 は 日本人 は 特に 精神病 の 発病 し 易い 傾向 に ある 人種 だ と 思う が 、 どう だろう 。
 231私 は 東大 神経科 へ 入院 し て いる とき 、 散歩 を 許さ れ て 、 ほか に 行く 場所 も ない ので 、 再三 後楽園 へ 野球 を 見物 に 行っ た 。
 232私 は 長蛇 の 列 に まじっ て 行列 し ながら 、 オレ が 精神病者 で ある こと は ハッキリ し て いる が 、 ほか の 連中 も そう な ん じゃ ない かな 、 この 連中 は その 自覚 が ない の だ から 何 を する か 見当 が つか ない し 、 薄気味わるく て 困っ た 。
 233私 は 野球 を 自分 で 遊ぶ こと は 楽しい が 、 見る の は 、 そんな に 好き で ない 。
 234単に それ だ から 云う わけ で は ない が 、 ほか に 見る こと 為す こと タクサン ある のに 、 なぜ 、 あんな に タクサン の 人間 が 野球 を 見物 し て いる か 、 という こと だ 。
 235つまり 、 流行 だ から で ある 。
 236新聞 が 書きたてる から だ 。
 237面白く て も 面白く なくて も 、 かまわ ない 。
 238流行 を たのしむ 精神 で ある 。
 239これ を 私 は 集団性中毒 と 名づけ て 、 初期 の 精神病 と 見る の で ある 。
 240麻薬中毒 や 宗教中毒 は 二 期 に 属し 、 集団性中毒 は これ より は 軽く 、 一 歩 手前 の 状態 で ある 。
 241自分 で 見物 し たい と 意志 し て は いる が 、 根本的 に は 自由意志 が 欠け て いる 。
 242好きキライ を ハッキリ 判別 する 眼力 が 成熟 せ ず 、 自分 の 生活圏 が 確立 さ れ て い ない 。
 243新聞 の 書きたてる もの へ 動い て 行く 。
 244動い て 行く ばかり で 停止 し 、 発見 する こと が ない 。
 245これ が この 中毒患者 の 特長 で ある 。
 246シールズ戦 を 見物 の 帰り 、 池島信平 が 、 ウーム 、 あれ だけ の 人間 に 二 冊 ずつ 文藝春秋 を 持た せ てえ 、 と 云っ た が 、 これ だけ 商売熱心 の ところ 、 やや 精神病 を 救わ れ て いる 。
 247私 は 伊東 から わざわざ 見物 に 行っ た から 、 まだ 精神病 かも知れない が 、 こうして 原稿紙 に 書きこん で 稼い で いる から 、 やっぱり 商業精神 の 発露 で 、 病気 完治 せ り と 判断 し て いる 。
 248私 は ヤジウマ で は ある が 流行 という こと だけ で は 同化 し ない ところ が チョット し た 取柄 で あっ た 。
 249戦争中 、 カシワデ の よう な こと を し て 、 朝な朝な ノリト の よう な もの を 唸る 行事 に 幸い 一 度 も 参加 せ ずに すむ こと が でき た し 、 電車 の 中 で 宮城 の 方向 に向って 、 人 の お尻 を 拝ま ずに すん だ 。
 250ベルリン の オリンピック で オリムポス の 神殿 の 火 を 競技場 まで リレー する の は 一 つ の 発明 で 結構 で ある が 、 それ 以来 、 やたら と 日本 の 競技会 で 、 なん でも いゝ から 、 どこ から か 火 を 運ぶ 。
 251なに か を 運ん で リレー を し て から で ない と 、 今 もって 日本 の 競技会 は ひらく こと が でき ない の で ある 。
 252海 の 彼方 から は 、 赤旗 の 乱舞 と スクラム と インター の 合唱 を やっ て みせ ない と 気 が すま ない という 宗教団体 が 船 に 乗っ て 渡っ て くる 。
 253この 競技会 の 主催者 や 日本海 を 渡っ て くる 宗教団体 は 、 悪質 な 宗教中毒 の 親玉 で あり 、 ノリト や カシワデ が 国 を 亡し た よう に 、 こんな 宗教行事 が 国家的 に 行わ れる よう に なる と 国 は 又 亡びる 。
 254国家的 な 集団発狂 が 近づい て いる の で ある 。
 255美 とは 何 ぞ や 、 という こと が 分る と 、 精神病 は 相当 抑える こと が できる 。
 256ノリト や カシワデ や 聖火リレー や 天皇服 や インターナショナル の 合唱 は 、 美 で は ない こと が 分る から で ある 。
 257しかし 一方 、 狂人 は 自ら の 狂気 を 自覚 し ない ところ に 致命的 な 欠点 が ある から 、 ここ が 非常 に むつかしい 。
 258狂人 に は 刃物 を 持た せ ない こと 。
 259最後 に は これ だけ しか ない 。
 260権力 とか 毒薬 とか 刃物 とか バクダン とか 、 すべて 危険 な 物 を 持た せ ない こと が 、 狂人 を 平和 な 隣人 たら しめる 唯一 の 方法 な の で ある 。