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aozora_Yuki-1-2000のコンテキスト表示

title:The Happy Prince (Kofuku no oji)
author:Wilde, Oscar --Yuki, Hiroshi (trans.)
date:1888 (2000)
source:Aozora Bunko (http://www.aozora.gr.jp/cards/000332/card2232.html)
genre:fiction
subcorpus:Aozora Bunko
terms of use:Creative Commons license


 1町 の 上 に 高く 柱 が そびえ 、 その 上 に 幸福 の 王子 の 像 が 立っ て い まし た 。
 2王子 の 像 は 全体 を 薄い 純金 で 覆わ れ 、 目 は 二 つ の 輝く サファイア で 、 王子 の 剣 の つか に は 大きな 赤い ルビー が 光っ て い まし た 。
 3王子 は 皆 の 自慢 でし た 。
 4「 風見鶏 と 同じ くらい に 美しい 」 と 、 芸術的 な センス が ある という 評判 を 得 た がっ て いる 一人 の 市会議員 が 言い まし た 。
 5「 もっとも 風見鶏 ほど 便利 じゃ ない が ね 」 と 付け加え て 言い まし た 。
 6これ は 夢想家 だ と 思わ れ ない よう に 、 と 心配 し た から です 。
 7実際 に は 彼 は 夢想家 なんか じゃ なかっ た の です が 。
 8「 どうして あの 幸福 の 王子 みたい に ちゃんと でき ない の 」
 9月 が 欲しい と 泣い て いる 幼い 男の子 に 、 賢明 な お母さん が 聞き まし た 。
 10「 幸福 の 王子 は 決して 何 か を 欲し がっ て 泣い たり し ない の よ 」
 11「 この 世界 の 中 に も 、 本当 に 幸福 な 人 が いる 、 という の は うれしい こと だ 」
 12失望 し た 男 が 、 この 素晴らしい 像 を 見つめ て つぶやき まし た 。
 13「 天使 の よう だ ね 」 と 、 明るい 赤 の マント と きれい な 白い 袖なしドレス を 来 た 養育院 の 子供たち が 聖堂 から 出 て き て 言い まし た 。
 14「 どうして その よう な こと が わかる の かね 」 と 数学教師 が いい まし た 。
 15「 天使 など 見 た こと が ない のに 」
 16「 ああ 、 でも 見 た こと は あり ます よ 。 夢 の 中 で 」 と 子供たち は 答え まし た 。
 17すると 数学教師 は 眉 を ひそめ て とても 厳しい 顔つき を し まし た 。
 18というのは 彼 は 子供たち が 夢 を 見る こと は よろしく ない と 考え て い た から です 。
 19ある 晩 、 その 町 に 小さな ツバメ が 飛ん で き まし た 。
 20友達ら は すでに 六 週間 前 に エジプト に 出発 し て い まし た が 、 その ツバメ は 残っ て い まし た 。
 21彼 は 最高 に きれい な 葦 に 恋 を し て い た から です 。
 22ツバメ が 彼女 に 出会っ た の は 春 の はじめ 、 大きく て 黄色い 蛾 を 追っ て 川 の 下流 へ 向かっ て 飛ん で い た とき でし た 。
 23葦 の すらっと し た 腰 が あまり に も 魅力的 だっ た ので 、 ツバメ は 立ち止まっ て 彼女 に 話しかけ た の です 。
 24「 君 を 好き に なっ て も いい かい 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 25ツバメ は 単刀直入 に 話す の が 好き でし た 。
 26葦 は 深く うなずき まし た 。
 27そこで ツバメ は 、 翼 で 水 に 触れ ながら 彼女 の 周り を ぐるぐる と 回り 、 銀色 の さざなみ を 立て まし た 。
 28これ は ツバメ から の ラブコール で 、 それ は 夏中 続き まし た 。
 29「 彼女 は おかしな 恋人 だ ね 」 と 他 の ツバメたち が ぺちゃぺちゃ 言い まし た 。
 30「 財産 は ない くせ に 、 親戚 は 多 すぎる と き てる 」
 31実際 、 その 川 は 葦 で いっぱい だっ た の です 。
 32やがて 、 秋 が 来る と その ツバメたち も みんな 飛ん で いっ て しまい まし た 。
 33みんな が 行っ て しまう と 、 ツバメ は さびしく なり 、 自分 の 恋人 に も 飽き 始め まし た 。
 34「 彼女 は 何 も 話し て くれ ない し な 」
 35ツバメ は 言い まし た 。
 36「 それに 浮気っぽい ん じゃ ない か と 思う ん だ 。
 37だって 彼女 は いつも 風 と いちゃつい てる ん だ から 」
 38確か に 、 風 が 吹く と いつも 、 葦 は 最高 に 優美 な おじぎ を する の でし た 。
 39「 彼女 は 家庭的 な の は 認める けれど 」 と ツバメ は 続け まし た 。
 40「 でも 、 僕 は 旅 を する の が 好き な ん だ から 、 僕 の 妻 たる もの も 、 旅 を する の が 好き で なくっ ちゃ 」
 41とうとう ツバメ は 「 僕 と 一緒 に 行っ て くれ ない か 」 と 彼女 に 言い まし た 。
 42でも 葦 は 首 を 横 に 振り まし た 。
 43彼女 は 自分 の 家 に とても 愛着 が あっ た の です 。
 44「 君 は 僕 の こと を もてあそん で い た ん だ な 」 と ツバメ は 叫び まし た 。
 45「 僕 は ピラミッド に 出発 する よ 。
 46じゃあ ね 」
 47ツバメ は 飛び去り まし た 。
 48一 日中 ツバメ は 飛び 、 夜 に なっ て 町 に 着き まし た 。
 49「 どこ に 泊まっ たら いい かな 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 50「 泊ま れる よう な ところ が あれ ば いい ん だ けれど 」
 51それから ツバメ は 高い 柱 の 上 の 像 を 見 まし た 。
 52「 あそこ に 泊まる こと に し よう 」 と 声 を あげ まし た 。
 53「 あれ は いい 場所 だ 、
 54新鮮 な 空気 も たくさん 吸える し 」
 55そして ツバメ は 幸福 の 王子 の 両足 の ちょうど 間 に 止まり まし た 。
 56「 黄金 の ベッドルーム だ 」
 57ツバメ は あたり を 見まわし ながら そっと 一人 で 言い 、 眠ろ う と し まし た 。
 58ところが 、 頭 を 翼 の 中 に 入れ よう と し た とたん 、 大きな 水 の 粒 が ツバメ の 上 に 落ち て き まし た 。
 59「 何て 不思議 な ん だ ! 」 と ツバメ は 大きな 声 を あげ まし た 。
 60「 空 に は 雲 一 つ なく 、 星 は とても くっきり と 輝い て いる というのに 、 雨 が 降っ て いる なんて 。
 61北ヨーロッパ の 天候 は まったく ひどい もん だ ね 。
 62あの 葦 は 雨 が 好き だっ た が 、 それ は 単なる 自己中心 だっ た し 」
 63すると 、 もう 一 滴 落ち て き まし た 。
 64「 雨よけ に なら ない ん だっ たら 、 像 なんて 何 の 役 に も 立た ない な 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 65「 もっと いい 煙突 を 探さ なく ちゃ 」
 66ツバメ は 飛び立と う と 決心 し まし た 。
 67でも 、 翼 を 広げる よりも 前 に 、 三 番目 の 水滴 が 落ち て き て 、 ツバメ は 上 を 見上げ まし た 。
 68すると ―― 何 が 見え た でしょう か 。
 69幸福 の 王子 の 両眼 は 涙 で いっぱい に なっ て い まし た 。
 70そして その 涙 は 王子 の 黄金 の 頬 を 流れ て い た の です 。
 71王子 の 顔 は 月光 の 中 で とても 美しく 、 小さな ツバメ は かわいそう な 気持ち で いっぱい に なり まし た 。
 72「 あなた は どなた です か 」
 73ツバメ は 尋ね まし た 。
 74「 私 は 幸福 の 王子 だ 」
 75「 それなら 、 どうして 泣い て いる ん です か 」 と ツバメ は 尋ね まし た 。
 76「 もう 僕 は ぐしょぬれ です よ 」
 77「 まだ 私 が 生き て い て 、 人間 の 心 を 持っ て い た とき の こと だっ た 」 と 像 は 答え まし た 。
 78「 私 は 涙 という もの が どんな もの か を 知ら なかっ た 。
 79というのは 私 は サンスーシ の 宮殿 に 住ん で い て 、 そこ に は 悲しみ が 入り込む こと は なかっ た から だ 。
 80昼間 は 友人たち と 庭園 で 遊び 、 夜 に なる と 大広間 で 先頭 切っ て ダンス を 踊っ た の だ 。
 81庭園 の 周り に は とても 高い 塀 が めぐらさ れ て い て 、 私 は 一 度 も その 向こう に 何 が ある の か を 気 に かけ た こと が なかっ た 。
 82周り に は 、 非常 に 美しい もの しか なかっ た 。
 83廷臣たち は 私 を 幸福 の 王子 と 呼ん だ 。
 84実際 、 幸福 だっ た の だ 、 もしも 快楽 が 幸福 だ と いう ならば 。
 85私 は 幸福 に 生き 、 幸福 に 死ん だ 。
 86死ん で から 、 人々 は 私 を この 高い 場所 に 置い た 。
 87ここ から は 町 の すべて の 醜悪 な こと 、 すべて の 悲惨 な こと が 見える 。
 88私 の 心臓 は 鉛 で でき て いる けれど 、 泣か ずに は い られ ない の だ 」
 89「 何 だ って ! この 王子 は 中 まで 金 で でき て いる ん じゃ ない の か 」 と ツバメ は 心 の 中 で 思い まし た 。
 90けれど ツバメ は 礼儀正しかっ た ので 、 個人的 な 意見 は 声 に 出し ませ ん でし た 。
 91「 ずっと 向こう の 」 と 、 王子 の 像 は 低く 調子 の よい 声 で 続け まし た 。
 92「 ずっと 向こう の 小さな 通り に 貧しい 家 が ある 。
 93窓 が 一 つ 開い て い て 、 テーブル に つい た ご婦人 が 見える 。
 94顔 は やせこけ 、 疲れ て いる 。
 95彼女 の 手 は 荒れ 、 縫い針 で 傷つい て 赤く なっ て いる 。
 96彼女 は お針子 を し て いる の だ 。
 97その 婦人 は トケイソウ 〔 訳注 : passion-flower この 花 の 副花冠 は キリスト の いばら の 冠 に 似 て いる と いう 〕 の 花 を サテン の ガウン に 刺繍 し よう と し て いる 。
 98その ガウン は 女王様 の 一番 可愛い 侍女 の ため の もの で 、 次 の 舞踏会 に 着る こと に なっ て いる の だ 。
 99その 部屋 の 隅 の ベッド で は 、 幼い 息子 が 病 の ため に 横 に なっ て いる 。
 100熱 が あっ て 、 オレンジ が 食べ たい と 言っ て いる 。
 101母親 が 与え られる もの は 川 の 水 だけ な ので 、 その 子 は 泣い て いる 。
 102ツバメさん 、 ツバメさん 、 小さな ツバメさん 。
 103私 の 剣 の つか から ルビー を 取り出し て 、 あの 婦人 に あげ て くれ ない か 。
 104両足 が この 台座 に 固定 さ れ て いる から 、 私 は 行け ない の だ 」
 105「 私 は エジプト に 行き たい ん です 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 106「 友人たち は ナイル川 に 沿っ て 飛びまわっ たり 、 大きな 蓮 の 花 に 話しかけ たり し て い ます 。
 107まもなく 、 みんな は 偉大 な 王 の 墓 の 中 で 眠り ます 。
 108王 も また 、 そこ の 彩ら れ た 棺 の 中 に い ます 。
 109王 は 黄色 の 亜麻布 で 包ま れ 、 香料 を 使っ て ミイラ に なっ て い ます 。
 110首 に は 青緑色 の 翡翠 の 首飾り が かけ られ 、 王 の 両手 は まるで しおれ た 葉 の よう な ん です よ 」
 111「 ツバメさん 、 ツバメさん 、 小さな ツバメさん 」 と 王子 は 言い まし た 。
 112「 もう 一 晩 泊まっ て 、 私 の お使い を し て くれ ない か 。
 113あの 子 は とても 喉 が 乾い て い て 、 お母さん は とても 悲しん で いる の だ よ 」
 114「 私 は 男の子 が 好き じゃ ない ん です 」 と ツバメ は 答え まし た 。
 115「 去年 の 夏 、 川 の ほとり に い た とき 、 二人 の 乱暴 な 男の子 が おり まし た 。
 116粉引き の 息子たち で 、 二人 は いつも 僕 に 石 を 投げつけ まし た 。
 117もちろん 一 回 も 当たり ませ ん でし た よ 。
 118僕たち ツバメ は そういう とき に は とても うまく 飛び ます し 、 その 上 、 僕 は 機敏さ で 有名 な 家系 の 出 です から 。
 119でも 、 石 を 投げ て くる っていう の は 失礼 な 証拠 です よ ね 」
 120でも 、 幸福 の 王子 が とても 悲し そう な 顔 を し まし た ので 、 小さな ツバメ も すまない 気持ち に なり まし た 。
 121「 ここ は とても 寒い です ね 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 122「 でも 、 あなた の ところ に 一 晩 泊まっ て 、 あなた の お使い を いたし ましょ う 」
 123「 ありがとう 、 小さな ツバメさん 」 と 王子 は 言い まし た 。
 124そこで ツバメ は 王子 の 剣 から 大きな ルビー を 取り出す と 、 くちばし に くわえ 、 町 の 屋根 を 飛び越え て 出かけ まし た 。
 125ツバメ は 、 白い 大理石 の 天使 が 彫刻 さ れ て いる 聖堂 の 塔 を 通りすぎ まし た 。
 126宮殿 を 通りすぎる とき 、 ダンス を 踊っ て いる 音 が 聞こえ まし た 。
 127美しい 女の子 が 恋人 と 一緒 に バルコニー に 出 て き まし た 。
 128「 何て 素晴らしい 星 だろう 」
 129彼 は 女の子 に 言い まし た 。
 130「 そして 愛 の 力 は 何と 素晴らしい こと だろう 」
 131「 私 の ドレス が 舞踏会 に 間に合う と いい わ 」 と 女の子 が 答え まし た 。
 132「 ドレス に トケイソウ の 花 が 刺繍 さ れる よう に 注文 し た の よ 。
 133でも お針子 っていう の は とっても 怠け者 だ から 」
 134ツバメ は 川 を 越え 、 船 の マスト に かかっ て いる ランタン を 見 まし た 。
 135ツバメ は 貧民街 を 越え 、 老い た ユダヤ人たち が 商売 を し て 、 銅 の 天秤 で お金 を 量り分ける の を 見 まし た 。
 136やっと 、 あの 貧しい 家 に たどり着く と 、 ツバメ は 中 を のぞき込み まし た 。
 137男の子 は ベッド の 上 で 熱 の ため に 寝返り を うち 、 お母さん は 疲れ 切っ て 眠り込ん で おり まし た 。
 138ツバメ は 中 に 入っ て 、 テーブル の 上 に ある お母さん の 指ぬき の 脇 に 大きな ルビー を 置き まし た 。
 139それから ツバメ は そっと ベッド の まわり を 飛び 、 翼 で 男の子 の 額 を あおぎ まし た 。
 140「 とても 涼しい 」 と 男の子 は 言い まし た 。
 141「 僕 は きっと 元気 に なる 」
 142そして 心地よい 眠り に 入っ て いき まし た 。
 143それから ツバメ は 幸福 の 王子 の ところ に 飛ん で 戻り 、 やっ た こと を 王子 に 伝え まし た 。
 144「 妙 な こと に 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 145「 こんな に 寒い のに 、 僕 は 今 とても 温かい 気持ち が する ん です 」
 146「 それ は 、 いい こと を し た から だ よ 」 と 王子 は 言い まし た 。
 147そこで 小さな ツバメ は 考え 始め まし た が 、 やがて 眠っ て しまい まし た 。
 148考えごと を する と ツバメ は いつも 眠く なる の です 。
 149朝 に なる と 、 ツバメ は 川 の ところ まで 飛ん で いき 、 水浴び を し まし た 。
 150「 何と 驚く べき 現象 だ 」 と 鳥類学 の 教授 が 橋 を 渡り ながら 言い まし た 。
 151「 冬 に ツバメ を 見る なんて 」
 152それから 教授 は 、 この こと について 長い 投書 を 地方新聞 に あて て 書き まし た 。
 153みんな が その 投書 を 話題 に し まし た 。
 154でも 、 その 投書 は 人々 が 理解 でき ない 単語 で いっぱい でし た 。
 155「 今夜 、 エジプト に 行き ます 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 156ツバメ は その 予定 に 上機嫌 でし た 。
 157町中 の 名所 を みな 訪れ て から 、 教会 の 尖塔 の てっぺん に 長い 時間 とまっ て い まし た 。
 158ツバメ が 行く ところ は どこ でも スズメ が チュンチュン 鳴い て い て 、 「 素敵 な 旅人 ね 」 と 口々に 言っ て い まし た ので 、 ツバメ は とても うれしく なり まし た 。
 159月 が のぼる と 、 ツバメ は 幸福 の 王子 の ところ に 戻っ て き まし た 。
 160「 エジプト に 何 か ことづけ は あり ます か 」 と 声 を あげ まし た 。
 161「 もう すぐ 出発 し ます から 」
 162「 ツバメさん 、 ツバメさん 、 小さな ツバメさん 」 と 王子 は 言い まし た 。
 163「 もう 一 晩 泊まっ て くれ ませ ん か 」
 164「 私 は エジプト に 行き たい と 思っ て い ます 」 と ツバメ は 答え まし た 。
 165「 明日 僕 の 友達 は 川 を 上り 、 二 番目 の 滝 へ 飛ん で いく でしょう 。
 166そこ で は パピルス の しげみ の 間 で カバ が 休ん で い ます 。
 167そして 巨大 な 御影石 の 玉座 に は メムノン神 が 座っ て いる ん です 。
 168メムノン神 は 、 星 を 一 晩中 見つめ 続け 、 明け の 明星 が 輝く と 喜び の 声 を 一 声 あげ 、 そして また 沈黙 に 戻る と 言わ れ て い ます 。
 169正午 に は 黄色 の ライオン が 水辺 に 水 を 飲み に やってき ます 。
 170ライオン の 目 は 緑柱石 の よう で 、 その 吠え声 は 滝 の ごうごう という 音 よりも 大きい ん です よ 」
 171「 ツバメさん 、 ツバメさん 、 小さな ツバメさん 」 と 王子 は 言い まし た 。
 172「 ずっと 向こう 、 町 の 反対側 に ある 屋根裏部屋 に 若者 の 姿 が 見える 。
 173彼 は 紙 で あふれ た 机 に もたれ て いる 。
 174傍ら に ある タンブラー に は 、 枯れ た スミレ が 一 束 刺し て ある 。
 175彼 の 髪 は 茶色 で 細かく 縮れ 、 唇 は ザクロ の よう に 赤く 、 大きく て 夢見る よう な 目 を し て いる 。
 176彼 は 劇場 の 支配人 の ため に 芝居 を 完成 さ せ よう と し て いる 。
 177けれど 、 あまり に も 寒い ので もう 書く こと が でき ない の だ 。
 178暖炉 の 中 に は 火の気 は なく 、 空腹 の ため に 気 を 失わ ん ばかり に なっ て いる 」
 179「 もう 一 晩 、 あなた の ところ に 泊まり ましょ う 」
 180よい 心 を ほんとう に 持っ て いる ツバメ は 言い まし た 。
 181「 もう 一 つ ルビー を 持っ て いき ましょ う か 」
 182「 ああ !
 183もう ルビー は ない の だ よ 」
 184王子 は 言い まし た 。
 185「 残っ て いる の は 私 の 両目 だけ だ 。
 186私 の 両目 は 珍しい サファイア で でき て いる 。
 187これ は 一千 年 前 に インド から 運ば れ て き た もの だ 。
 188私 の 片目 を 抜き出し て 、 彼 の ところ まで 持っ て いっ て おくれ 。
 189彼 は それ を 宝石屋 に 売っ て 、 食べ物 と 薪 を 買っ て 、 芝居 を 完成 さ せる こと が できる だろう 」
 190「 王子様 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 191「 私 に は でき ませ ん 」
 192そして ツバメ は 泣き 始め まし た 。
 193「 ツバメさん 、 ツバメさん 、 小さな ツバメさん 」 と 王子 は 言い まし た 。
 194「 私 が 命じ た とおり に し て おくれ 」
 195そこで ツバメ は 王子 の 目 を 取り出し て 、 屋根裏部屋 へ 飛ん で いき まし た 。
 196屋根 に 穴 が あい て い た ので 、 入る の は 簡単 でし た 。
 197ツバメ は 穴 を 通っ て さっと 飛び込み 、 部屋 の 中 に 入り まし た 。
 198その 若者 は 両手 の 中 に 顔 を うずめる よう に し て おり まし た ので 、 鳥 の 羽ばたき は 聞こえ ませ ん でし た 。
 199そして 若者 が 顔 を 上げる と 、 そこ に は 美しい サファイア が 枯れ た スミレ の 上 に 乗っ て い た の です 。
 200「 私 も 世の中 に 認め られ 始め た ん だ 」
 201若者 は 大声 を 出し まし た 。
 202「 これ は 誰 か 、 熱烈 な ファン から の もの だ な 。
 203これ で 芝居 が 完成 できる ぞ 」
 204若者 は とても 幸福 そう でし た 。
 205次 の 日 、 ツバメ は 波止場 へ 行き まし た 。
 206大きな 船 の マスト の 上 に とまり 、 水夫たち が 大きな 箱 を 船倉 から ロープ で 引きずり出す の を 見 まし た 。
 207箱 が 一 つ 出る たび に 「 よいこらせ ! 」 と 水夫たち は 叫び まし た 。
 208「 僕 は エジプト に 行く ん だ よ ! 」 と ツバメ も 大声 を 出し まし た が 、 誰 も 気 に し ませ ん でし た 。
 209月 が 出る と ツバメ は 幸福 の 王子 の ところ に 戻り まし た 。
 210「 おいとまごい に やってき まし た 」
 211ツバメ は 声 を あげ まし た 。
 212「 ツバメさん 、 ツバメさん 、 小さな ツバメさん 」 と 王子 は 言い まし た 。
 213「 もう 一 晩 泊まっ て くれ ませ ん か 」
 214「 もう 冬 です 」
 215ツバメ は 答え まし た 。
 216「 冷たい 雪 が まもなく ここ に も 降る でしょう 。
 217エジプト で は 太陽 の 光 が 緑 の シュロ の 木 に 温かく 注ぎ 、 ワニたち は 泥 の 中 に 寝そべっ て のんびり 過ごし て い ます 。
 218友人たち は 、 バールベック寺院 の 中 に 巣 を 作っ て おり 、 ピンク と 白 の ハト が それ を 見 て 、 クークー と 鳴き交わし て い ます 。
 219王子様 。
 220僕 は 行か なく ちゃ なり ませ ん 。
 221あなた の こと は 決して 忘れ ませ ん 。
 222来年 の 春 、 僕 は あなた が あげ て しまっ た 宝石 二 つ の 代わり に 、 美しい 宝石 を 二 つ 持っ て 帰っ て き ます 。
 223ルビー は 赤い バラ よりも 赤く 、 サファイア は 大海 の よう に 青い もの に なる でしょう 」
 224「 下 の ほう に 広場 が ある 」 と 幸福 の 王子 は 言い まし た 。
 225「 そこ に 小さな マッチ売り の 少女 が いる 。
 226マッチ を 溝 に 落とし て しまい 、 全部 駄目 に なっ て しまっ た 。
 227お金 を 持っ て 帰れ なかっ たら 、 お父さん が 女の子 を ぶつ だろう 。
 228だから 女の子 は 泣い て いる 。
 229あの 子 は 靴 も 靴下 も はい て い ない し 、 何 も 頭 に かぶっ て い ない 。
 230私 の 残っ て いる 目 を 取り出し て 、 あの 子 に やっ て ほしい 。
 231そう すれ ば お父さん から ぶた れ ない だろう 」
 232「 もう 一 晩 、 あなた の ところ に 泊まり ましょ う 」
 233ツバメ は 言い まし た 。
 234「 でも 、 あなた の 目 を 取り出す なんて でき ませ ん 。
 235そんな こと を し たら 、 あなた は 何 も 見え なく なっ て しまい ます 」
 236「 ツバメさん 、 ツバメさん 、 小さな ツバメさん 」 と 王子 は 言い まし た 。
 237「 私 が 命じ た とおり に し て おくれ 」
 238そこで ツバメ は 王子 の もう 片方 の 目 を 取り出し て 、 下 へ 飛ん で いき まし た 。
 239ツバメ は マッチ売り の 少女 の ところ まで さっと 降り て 、 宝石 を 手 の 中 に 滑り込ま せ まし た 。
 240「 とっても きれい な ガラス玉 ! 」
 241その 少女 は 言い まし た 。
 242そして 笑い ながら 走っ て 家 に 帰り まし た 。
 243それから ツバメ は 王子 の ところ に 戻り まし た 。
 244「 あなた は もう 何 も 見え なく なり まし た 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 245「 だから 、 ずっと あなた と 一緒 に いる こと に し ます 」
 246「 いや 、 小さな ツバメさん 」 と かわいそう な 王子 は 言い まし た 。
 247「 あなた は エジプト に 行か なく ちゃ いけ ない 」
 248「 僕 は ずっと あなた と 一緒 に い ます 」
 249ツバメ は 言い まし た 。
 250そして 王子 の 足元 で 眠り まし た 。
 251次 の 日 一 日 、 ツバメ は 王子 の 肩 に 止まり 、 珍しい 土地 で 見 て き た たくさん の 話 を し まし た 。
 252ナイル川 の 岸沿い に 長い 列 を なし て 立っ て い て 、 くちばし で 黄金 の 魚 を 捕まえる 赤い トキ の 話 。
 253世界 と 同じ くらい 古く から あり 、 砂漠 の 中 に 住ん で い て 、 何 でも 知っ て いる スフィンクス の 話 。
 254琥珀 の ロザリオ を 手 に し て 、 ラクダ の 傍ら を ゆっくり 歩く 貿易商人 の 話 。
 255黒檀 の よう に 黒い 肌 を し て おり 、 大きな 水晶 を 崇拝 し て いる 月 の 山 の 王 の 話 。
 256シュロ の 木 で 眠る 緑 の 大蛇 が い て 、 二十 人 の 僧侶 が 蜂蜜 の お菓子 を 食べ させ て いる 話 。
 257広く 平ら な 葉 に 乗っ て 大きな 湖 を 渡り 、 蝶 と いつも 戦争 し て いる ピグミー の 話 。
 258「 可愛い 小さな ツバメさん 」
 259王子 は 言い まし た 。
 260「 あなた は 驚く べき こと を 聞か せ て くれ た 。
 261しかし 、 苦しみ を 受け て いる 人々 の 話 ほど 驚く べき こと は ない 。
 262度し がたい 悲しみ 以上 に 解き がたい 謎 は ない の だ 。
 263小さな ツバメさん 、 町 へ 行っ て おくれ 。
 264そして あなた の 見 た もの を 私 に 教え て おくれ 」
 265ツバメ は その 大きな 町 の 上 を 飛びまわり 、 金持ち が 美しい 家 で 幸せ に 暮らす 一方 で 、 乞食 が その 家 の 門 の 前 に 座っ て いる の を 見 まし た 。
 266暗い 路地 に 入っ て いき 、 ものうげ に 黒い 道 を 眺め て いる 空腹 な 子供たち の 青白い 顔 を 見 まし た 。
 267橋 の 通り の 下 で 小さな 少年 が 二人 、 互い に 抱き合っ て 横 に なり 、 暖め合っ て い まし た 。
 268「 お腹 が すい た よう 」 と 二人 は 口 に し て い まし た が 「 ここ で は 横 に なっ て い て は いか ん 」 と 夜警 が 叫び 、 二人 は 雨 の 中 へ と さまよい出 まし た 。
 269それから ツバメ は 王子 の ところ へ 戻っ て 、 見 て き た こと を 話し まし た 。
 270「 私 の 体 は 純金 で 覆わ れ て いる 」 と 王子 は 言い まし た 。
 271「 それ を 一 枚 一 枚 はがし て 、 貧しい 人 に あげ なさい 。
 272生き て いる 人 は 、 金 が あれ ば 幸福 に なれる と いつも 考え て いる の だ 」
 273ツバメ は 純金 を 一 枚 一 枚 はがし て いき 、 とうとう 幸福 の 王子 は 完全 に 輝き を 失い 、 灰色 に なっ て しまい まし た 。
 274ツバメ が 純金 を 一 枚 一 枚 貧しい 人 に 送る と 、 子供たち の 顔 は 赤み を 取り戻し 、 笑い声 を あげ 、 通り で 遊ぶ の でし た 。
 275「 パン が 食べ られる ん だ ! 」 と 大声 で 言い まし た 。
 276やがて 、 雪 が 降っ て き まし た 。
 277その 後 に 霜 が 降り まし た 。
 278通り は 銀 で でき た よう に なり 、 たいそう 光り輝い て おり まし た 。
 279水晶 の よう な 長い つらら が 家 の のき から 下がり 、 みんな 毛皮 を 着 て 出歩く よう に なり 、 子供たち は 真紅 の 帽子 を かぶり 、 氷 の 上 で スケート を し まし た 。
 280かわいそう な 小さな ツバメ に は どんどん 寒く なっ て き まし た 。
 281でも 、 ツバメ は 王子 の 元 を 離れ よう と は し ませ ん でし た 。
 282心 から 王子 の こと を 愛し て い た から です 。
 283パン屋 が 見 て い ない とき 、 ツバメ は パン屋 の ドア の 外 で パン屑 を 拾い集め 、 翼 を ぱたぱた さ せ て 自分 を 暖め よう と し まし た 。
 284でも 、 とうとう 自分 は 死ぬ の だ と わかり まし た 。
 285ツバメ に は 、 王子 の 肩 まで もう 一 度 飛びあがる だけ の 力 しか 残っ て い ませ ん でし た 。
 286「 さようなら 、 愛する 王子様 」
 287ツバメ は ささやく よう に 言い まし た 。
 288「 あなた の 手 に キス を し て も いい です か 」
 289「 あなた が とうとう エジプト に 行く の は 、 私 も うれしい よ 、 小さな ツバメさん 」 と 王子 は 言い まし た 。
 290「 あなた は ここ に 長居 し すぎ た 。
 291でも 、 キス は くちびる に し て おくれ 。
 292私 も あなた を 愛し て いる ん だ 」
 293「 私 は エジプト に 行く の で は あり ませ ん 」 と ツバメ は 言い まし た 。
 294「 死 の 家 に 行く ん です 。
 295『 死 』 という の は 『 眠り 』 の 兄弟 、 です よ ね 」
 296そして ツバメ は 幸福 の 王子 の くちびる に キス を し て 、 死ん で 彼 の 足元 に 落ち て いき まし た 。
 297その 瞬間 、 像 の 中 で 何 か が 砕け た よう な 奇妙 な 音 が し まし た 。
 298それ は 、 鉛 の 心臓 が ちょうど 二 つ に 割れ た 音 な の でし た 。
 299ひどく 寒い 日 でし た から 。
 300次 の 日 の 朝早く 、 市長 が 市会議員たち と 一緒 に 、 像 の 下 の 広場 を 歩い て おり まし た 。
 301柱 を 通りすぎる とき に 市長 が 像 を 見上げ まし た 。
 302「 おやおや 、 この 幸福 の 王子 は 何て みすぼらしい ん だ 」 と 市長 は 言い まし た 。
 303「 何て みすぼらしい ん だ 」
 304市会議員たち は 叫び まし た 。
 305彼ら は いつも 市長 に 賛成 する の です 。
 306皆 は 像 を 見 よう と 近寄っ て いき まし た 。
 307「 ルビー は 剣 から 抜け落ち てる し 、 目 は 無くなっ てる し 、 もう 金 の 像 じゃ なく なっ て いる し 」 と 市長 は 言い まし た
 308「 これ で は 乞食 と たいして 変わら ん じゃ ない か 」
 309「 乞食 と たいして 変わら ん じゃ ない か 」 と 市会議員たち が 言い まし た 。
 310「 それに 、 死ん だ 鳥 なんか が 足元 に いる 」
 311市長 は 続け まし た 。
 312「 われわれ は 実際 、 鳥類 は ここ で 死ぬ こと あたわ ず という 布告 を 出さ ね ば なら ん な 」
 313そこで 書記 が その 提案 を 書きとめ まし た 。
 314そこで 彼ら は 幸福 の 王子 の 像 を 下ろし まし た 。
 315「 もう 美しく ない から 、 役 に も 立た ない わけ だ 」
 316大学 の 芸術 の 教授 が 言い まし た 。
 317溶鉱炉 で 像 を 溶かす とき に 、 その 金属 を 使っ て どう する か を 決める ため 、 市長 は 市議会 を 開き まし た 。
 318「 もちろん 他 の 像 を 立て なくて は なら ない 」 と 市長 は 言い まし た 。
 319「 そして その 像 は 私 の 像 で なくて は なる まい 」
 320「 いや 、 私 の 像 です 」 と 市会議員たち が それぞれ 言い 、 口論 に なり まし た 。
 321私 が 彼ら の うわさ を 最後 に 聞い た とき も 、 まだ 口論 し て い まし た 。
 322「 おかしい なあ 」
 323鋳造所 の 労働者 の 監督 が 言い まし た 。
 324「 この 壊れ た 鉛 の 心臓 は 溶鉱炉 で は 溶け ない ぞ 。
 325捨て なく ちゃ なら ん な 」
 326心臓 は 、 ごみため に 捨て られ まし た 。
 327そこ に は 死ん だ ツバメ も 横たわっ て い た の です 。
 328神さま が 天使たち の 一人 に 「 町 の 中 で 最も 貴い もの を 二 つ 持っ て き なさい 」 と おっしゃい まし た 。
 329その 天使 は 、 神さま の ところ に 鉛 の 心臓 と 死ん だ 鳥 を 持っ て き まし た 。
 330神さま は 「 よく 選ん で き た 」 と おっしゃい まし た 。
 331「 天国 の 庭園 で この 小さな 鳥 は 永遠 に 歌い 、 黄金 の 都 で この 幸福 の 王子 は 私 を 賛美 する だろう 」