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essay_crossover24_IharaJan2015のコンテキスト表示

タイトル 想像的なアイディアの源泉(1)
Title Soozooteki na aidia no gensen (1)
筆者 井原 總
author Ihara, Satoshi
年/year 2015.1
出典 東北大学学際高等研究教育院『クロスオーバー』24
source Toohokudaigaku gakusaikootookenkyuukyouikuin Crossover 24
genre essay
subcorpus Academic Essay


 1創造的 な アイディア の 源泉 ( 1 )
 2井原總
 3近年 、 科学史 が 大学 の 講義 から 消え つつ あり ます 。
 4それ にもかかわらず 科学史的知見 が 取りざた さ れる こと が 少なく あり ませ ん 。
 5そこで 若い 研究者 の 皆さん に も 科学 の 歴史 を 振り返っ て もらえ たら と 考え 数 回 お話 を いたし ます 。
 6早く 目覚め た 巨人
 7「 万能 の 天才 」 と 呼ば れる レオナルド・ダ・ヴィンチ について 、 精神病理学者 の フロイド は 、 かつて 「 あまり に も 早く 目覚め た 巨人 」 と 述べ まし た 。
 8この 言葉 が 、 時代 を 遙か に 飛び越え て 斬新 な アイディア の 数々 を 生み出し た ダ・ヴィンチ へ の 評価 で ある こと は 言 を まち ませ ん 。
 9ところで ダ・ヴィンチ は 生前 に 本 を 一 冊 も 出し て い ませ ん 。
 10彼 の 手稿 ( コーディチェ ; Codice : manuscript ) が 広く 知ら れる よう に なっ た の は ずっと 後 の こと でし た 。
 11すべて の 手稿 は 遺言 により 弟子 の フランチェスコ・メルツィ に 贈ら れ まし た 。
 12フランチェスコ の 死後 、 オラッツィオ・メルツィ が 競売 に かけ て しまい 、 散逸 し て しまい ます 。
 13ですから この 時代 、 彼 の 手稿 は 一般 に は 知ら れる こと が なかっ た と いえ ます 。
 14同時代人 として は 、 美術家列伝 を 書い た 美術史家 の ジョルジョ・ヴァザーリ だけ が 見 た に 過ぎ ない と 考え られ て い ます 。
 151960 年代 に なっ て 再発見 さ れ た 手稿 さえ あり ます 。
 16それ は マドリッド の 図書館 で 見つけ られ た ので マドリッド手稿 ( CodiceMadrid ) と 呼ば れ て い ます 。
 17したがって 彼 の アイディア が 世 に 影響 を 与える こと は なく 「 あまり に も 早く 目覚め た 」 巨人 と は 言い得て妙 で あっ た と 思い ます 。
 18天才 として で は なく
 19手稿 に 描か れ た 斬新 な 夥しい 数 の アイディア は まさに 時代 を 先取り し た もの でし た 。
 20彼 が 、 そこ で 描い た もの は 、 「 万能 の 天才 」 と いえる に ふさわしい 内容 を 含ん で おり まし た 。
 21しかし 、 天才 など と 言っ て しまう と 、 歴史的・社会的 に も 超越的存在 に なっ て しまい そう です 。
 22天才 の 存在 を 否定 する わけ で は あり ませ ん が 、 天才 の 出現 を 用意 し た の は 無数 の 人々 の 英知 と 努力 を 基盤 と し て い ます し 、 何より も 天才 と 呼ば れる 人 の 労苦 の 結果 だ と 考え ます ので 、 天才的ひらめき に 科学 の 歴史 の 進歩 を 委ね て しまう と 科学史研究 など 不用 の もの に なっ て しまい ます 。
 23若い 頃 、 『 世界 の 博物館 』 シリーズ で 『 ダ・ヴィンチ博物館 』 を 扱う ので 科学者・技術者 として の ダ・ヴィンチ について 書い て ほしい と 依頼 さ れ た ので 、 天才 という 修飾語 を つけ ない という 約束 で 、 私 も 一 文 を 書い た の です が 、 本 に は 「 万能 の 天才 」 という 文字 が 踊っ て い まし た 。
 24私 は ここ で 独創的 な 彼 の アイディア の ひらめき が 苦 も なく 泉 の よう に 湧き上がっ て き た もの で ない こと を 示そ う と し まし た 。
 25スケッチ は 実験ノート
 26彼 の 手稿 の 中 に は 、 レンズ研磨機 の よう な 精密機械 や 工作機械 から はじまり 土木建設機械 に いたる 機械技術 の 精巧 な しかも 膨大 な 数 の スケッチ が 残さ れ て い ます 。
 27また 、 運河建設 、 橋梁建設 、 堤防建設 、 築城建設 、 船舶 、 バネ駆動自動車 、 飛行機 に いたる スケッチ を 残し た こと は あまり に も 有名 です 。
 28さらに 水車駆動 の 製粉機 の スケッチ で は 1 台 の 水車 の 仕事 は 一定 で あり 、 製粉機 の 台数 ( n ) が 増せ ば 一 台 の 仕事量 は 1/n に なる こと を 示す よう な 科学的 な 洞察力 は 熱 や 光 、 水 、 気象 に まで 及ん で い まし た 。
 29彼 の 無数 の スケッチ は 今日 で いう 観察・実験ノート その もの です 。
 30数学的論理 を 持ち合わせ て い なかっ た ダ・ヴィンチ は 精細 な スケッチ で それ を 代位 し た と も いえ ます し 、 高速度カメラ の 目 、 微速度カメラ の 目 を 思わ せる 鳥 の 飛翔 や 水流 、 水滴 、 気流 の 動き の スケッチ は 厳しい 鍛錬 によって 獲得 さ れ た 鋭い 観察力 を 示す もの と いえ ます 。
 31ダ・ヴィンチ を 育ん だ 工房 ( ボッテガ Bottega ; Boutique )
 32彼 を 育て た ヴェロッキオ の 工房 は フィレンツェ で もっとも 優れ た 工房 で 、 絵画 や 銅像 、 石膏像 ばかり で は なく 革細工 、 木工 、 金属加工 、 機械 の 製作 、 橋梁 、 門扉 や 大砲 の 鋳造 はては 教会 の ドーム建設 など を 行う 一大生産工場 で も あり まし た 。
 33彼 の ノート の 中 に は 時として 意外 な メモ が 残さ れ て い たり し ます 。
 34例えば 、 彼 が 考案 し た 運河掘削機械 を 使用 する と 、 人力 の それ と 比べ て どの くらい 工期 と 工費 が 節約 できる か が 詳細 に 記さ れ て い ます 。
 35土砂運搬 に もっこ を 担ぐ 人夫 の 平坦 な 場 で 作業 する 者 の 賃金 と 斜面 を 担ぎ上げる 者 の 賃金 の 違い さえ 区別 さ れ て 記載 さ れ て い ます 。
 36いわば 当時 の 最先端産業 の 現場 で さまざま な 知識 と 技術 を 身 に つけ た もの と 思わ れ ます 。
 37また 別 の ノート に は 古代ローマ の 遺跡発掘 に 強い 関心 を 示す 記載 も あり ます 。
 38古代ローマ の 建築材料 で ある モルタル の 生石灰 と 砂 の 配合 を 研究 する か と 思う と 、 古代ローマ の 建築物 や 橋梁 から も 実 に 多く を 学び取っ て い ます 。
 39いう までも なく 、 夥しい 機械 の 研究 に は この 時代 に 流布 し た 機械 に関する 書籍 や 実物 を 参考 に し た の で は ない か と 思い ます 。
 4020 世紀 前半期 の 中世力学史 を 専門 と し た ドイツ の 著名 な 科学史家 ボールヴィル は かつて ダ・ヴィンチ を 「 中世図書館 の ネズミ 」 など と いっ て 、 彼 の 独創性 を 否定 し た ほど でし た 。