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essay_manabi44_Yamamoto2008summerのコンテキスト表示

タイトル 歯は動く
Title Ha wa ugoku
筆者 山本照子
author Yamamoto, Teruko
年/year 2008
出典 東北大学広報誌『まなびの杜』44
source Toohokudaigaku koohooshi Manabinomori 44
genre essay
subcorpus Academic Essay


 1歯 は 動く
 2山本照子
 3ヒト の 歯 は 生涯 動き 続け ます
 4歯 は 硬い 骨 の 中 に 生え て い ます ので 、 一見 、 じっと し て 動い て いる よう に 見え ませ ん が 、 ヒト の 歯 は 生涯 動き 続け て い ます 。
 5硬い 骨 の 中 で 乳歯 が 出来あがり 、 生後 半 年 くらい に は 、 乳児 の 歯 が 初めて 生え て き ます 。
 6そして 、 大人 の 歯 は 六 歳 頃 から 生え 始め 、 12~13 歳 頃 に は 永久歯 が 生えそろい ます 。
 7そう なっ た 後 、 さらに 思春期 以降 まで 、 上顎骨 や 下顎骨 の 成長 が 続き 、 継続的 に 歯 の 位置 は 変化 し て 行き ます 。
 8そして 、 成人 に 達し 、 生涯 が 閉じる まで 、 歯 は 僅か ずつ 伸び 、 僅か ずつ 前 へ 前 へ と 動い て 行き ます 。
 9この よう な 現象 を 「 生理的 な 歯 の 移動 」 と 言い ます が 、 これ は 、 人 が 毎日 、 絶えず 呼吸 を し たり 、 食べ物 を 噛ん だり 、 飲み込ん だり 、 話し を し たり する 生理的 な 口 の 運動 と 、 成長 や 加齢 による 変化 に 対応 し て 生じる 歯並び と 咬み合わせ の 変化 です 。
 10この よう に し て 、 若い 時 に は 良い 咬み合わせ で あっ た のに 、 徐々 に 受け口 に なっ て き て 、 それ を 50 歳 くらい に なっ て 気づい たり も する わけ です 。
 11歯 は 硬い 骨 の 中 に 生え て い ます が 、 その 根 の 周り に 軟らかい 歯根膜 という 組織 が あり 、 歯 の 移動 に 関係 し ます 。
 12ここ に は 、 骨 や セメント質 を 生成 する 細胞 に 分化 できる 細胞 が 含ま れ て い ます が 、 最近 、 私たち は ヒト の この 歯根膜細胞 の 中 に 骨 、 軟骨 、 脂肪組織 そして 神経組織 など に 分化 する 能力 を 持つ 幹細胞 が 存在 する こと を 突き止め まし た 。
 13今 、 私たち は この 歯根膜幹細胞 を 用い て 、 歯 や 歯 の 周り の 組織 を 再生 する 研究 を 進め て い ます 。
 14図 1
 15矯正歯科治療 による 歯 の 移動
 16歯並び や 咬み合わせ が 悪い と 、 矯正歯科治療 を 行い ます 。
 17歯 に 力 ( 矯正力 と いう ) を かけ て 、 ゆっくり と 骨 の 中 に ある 歯 を 動かし て 、 歯並び を 治療 し ます 。
 18図 1 上 は 、 「 開咬 」 という 咬み合わせ異常 で 、 前歯 で 食べ物 を うまく 噛み きる こと が でき ませ ん 。
 19口 を 閉じる こと も 困難 でし た 。
 20これ に対する 矯正歯科治療 を 約2 年 行っ た 結果 、 歯並び が 改善 さ れ 、 食べ物 も よく 噛める よう に なり 、 自然 に 口 を 閉じる こと も 出来る よう に なり まし た ( 図 1 下 ) 。
 21しかし 、 治療中 に 患者さん に は 痛み が 発生 し 、 治療期間 も 長く かかり ます 。
 22私たち は 出来る 限り 速く 治療 でき 、 かつ 痛み の 少ない 矯正歯科治療 の ため の 基礎的・臨床的研究 を し て い ます 。
 23機械的刺激 による 骨改造 の 主役 は 骨細胞 ?
 24骨細胞 は 骨 の 中 で 最も 多い 細胞 で 、 1 mm 3 の 骨中 に 26,000 個 も 存在 し ます 。
 25自由 に 伸び た 骨細胞 の 突起 は 骨芽細胞層 まで 達し 、 複雑 な 細胞性ネットワーク を 形成 し て い ます 。
 26その ネットワーク は 機械的刺激 を 感知 し て 適応 する ため の 重要 な 機能 を 担っ て いる と 考え られ て い ます 。
 27私たち は 特別 な 顕微鏡 を 用い て 骨細胞性ネットワーク を 観察 し まし た 。
 28図 2 は 『 BONE 』 という 専門誌 の 表紙 を 飾っ た 写真 です が 、 骨 の 中 の 様子 を 示し て い ます 。
 29骨芽細胞 ( 赤い 細胞 ) は 、 自ら 分泌 し た 骨基質 の 中 に 埋め込ま れ て 成熟 し 、 骨細胞 ( 緑色 の 細胞 ) に なり 、 多数 の 細胞突起 を 骨基質 へ と 伸ばし 、 隣接 する 骨細胞 や 骨芽細胞 と 結合 し 、 連絡 し あい 、 細胞性ネットワーク を 形成 し て 情報伝達 を 行う と 考え られ て い ます 。
 30しかし 、 骨 に 機械的刺激 が かかっ た 場合 「 どのような 形 」 で 「 どの 細胞 」 に 刺激 が 届い て 骨 の 応答 が 始まっ て いる の か は 明らか で は あり ませ ん 。
 31私たち は この 問題 に 取り組み まし た 。
 32ねずみ の 臼歯間 に ゴム を 挿入 し て 歯 の 移動 を 行う と 、 加え られ た 機械的刺激 により 骨基質タンパク質 の 一 つ で ある オステオポンチン ( OPN ) の 発現 が 誘導 さ れ ます 。
 33この 誘導 は 1 日目 に は 歯槽骨 の 圧迫 さ れ た 側 の 骨細胞 、 2 日目 に は 牽引 さ れ た 側 の 骨細胞 まで 拡がり まし た 。
 34そして 3 日目 に は 破骨細胞 ( 骨 を 食べる 細胞 ) の 数 が 増加 し て 骨吸収 が 活発 に 生じ まし た 。
 35さらに 、 誘導 さ れ た OPN は 破骨細胞 を 増やす 重要 な 因子 で ある こと が 明らか に なり まし た ( 図 3 参照 ) 。
 36さらに 、 私たち は 、 機械的刺激 に 応答 する 主 たる 細胞 は どれ で ある か を 検討 する ため 、 骨 に 特殊処理 を し て 純度 の 高い 骨細胞群 を 単離 ・ 培養 し 、 さらに 調べ まし た 。
 37その 結果 、 骨細胞 は 骨芽細胞 に 比較 し て 機械的刺激 へ の 感受性 が 低く 、 生理的状態 の 骨改造 に は 積極的 に 関わら ずに い ます が 、 急激 に 起こっ た 外界 の 機械的 な 刺激 に 反応 する センサー として の 役割 を 果たし て いる と 考え られ まし た 。
 38この よう な 骨細胞科学研究 は 矯正歯科治療 のみ なら ず 、 骨粗鬆症 や 骨 の 病気 の 治療 に も 役立っ て い ます 。
 39図 2
 40国際学術誌 Bone ( 2001 年 ) の 表紙
 41骨芽細胞 ( 赤い 細胞 ) は 骨表面 を 被っ て いる 。
 42骨 の 深部 に は 骨細胞 ( 緑色 ) が 多数 の 細胞突起 を 骨基質中 に 伸ばし 、 互い に 細胞性ネットワーク を 形成 し 、 細胞間情報伝達 を 行っ て いる 。
 43Kamioka , Takano-Yamamoto et al. Bone 2001
 44矯正歯科治療 の 痛み を 軽減 できる ?
 45歯 に 持続的 な 矯正力 を 加える と 、 患者さん は 痛み や 不快感 を 覚え ます 。
 46痛み は 単に 感覚的 な もの で は なく 、 組織 に 生じ た 、 あるいは 生じ かかっ て いる 損傷 に対する 不快 な 感覚 や 情動 によって 起こり ます 。
 47また 、 痛み の 程度 は 刺激 の 強さ により 単純 に 決まる もの で は なく 、 主観的 な 不快 な もの として 認識 さ れ 、 必ずしも 刺激 そのもの の 程度 を 反映 し て いる わけ で も あり ませ ん 。
 48歯 の 移動 による 痛み は 矯正力 が 加わっ た 直後 のみ に 生じる の で は なく 、 移動開始 から 数 日間 持続 し ます 。
 49すなわち 、 矯正的 な 歯 の 移動 によって 生じる 痛み は 、 すぐ に 起こる 痛み と 後 で 遅れ て くる 痛み に 分類 でき ます 。
 50しかし 、 矯正歯科治療 に 関連 し た 痛み や 不快感 が 脳 で どのように 処理 さ れ て いる の か は 、 これ まで ほとんど 明らか に さ れ て い ませ ん でし た 。
 51歯 の 周囲 に ある 歯根膜 の 神経終末 に は 高感度 の センサー が あり 、 しかも 治療 を 行う 過程 で ますます 過敏 に なり ます 。
 52従来 、 疼痛 を 軽減 さ せる 方法 として 、 抗炎症剤 や 鎮痛薬 を 服用 し まし た が 、 非ステロイド系抗炎症剤 は 歯 の 移動速度 を 遅く する と 報告 さ れ て い ます 。
 53矯正歯科治療 による 疼痛 は 限局性 の もの が 多い こと から 、 局所的 で 効率よく 、 副作用 の 少ない 方法 で 疼痛 を 軽減 する こと が 望ましい わけ です 。
 54一般 に 組織表面吸収型 の 炭酸ガスレーザー は 、 細胞 の 増殖 や 分化 を 引き起こす 効果 が ある と 知ら れ て おり 、 歯 の 移動 で 生じる 疼痛 の 軽減効果 を 発揮 する 可能性 が 高い こと が 考え られ ます 。
 55私たち は 、 矯正歯科治療 における レーザー照射 の 疼痛軽減効果 を 見いだし まし た 。
 56さらに 、 ねずみ を 使っ た 実験 で も 脳神経科学的研究 により 疼痛 の 軽減効果 を 証明 し まし た 。
 57こうした 臨床・基礎研究 を 進め て 、 これ から も 人々 に より よい 医療 を 提供 し て いき たい と 願っ て い ます 。
 58図 3
 59歯 に 矯正力 が かかる と 歯根膜 の 血管 の 透過性 が 高まり 、 単核細胞 が 血管 から 遊走 し て き て 骨 の 表面 に 集まっ て くる 。
 60これら の 単核細胞 は 融合 し て 破骨細胞 に なり 、 骨吸収 を 亢進 し て 歯 を 移動 さ せる 。
 61OPN : オステオポンチン Terai , Takano-Yamamoto et al. JBoneMineralRes 1999 .