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essay_manabi51_Yamaya2010springのコンテキスト表示

タイトル イネによる無機窒素の同化と代謝反応の分子基盤
Title Ine ni yoru mukichisso no dooka to taishahannoo no bunshikiban
筆者 山谷知行
author Yamaya, Tomoyuki
年/year 2010
出典 東北大学広報誌『まなびの杜』51
source Toohokudaigaku koohooshi Manabinomori 51
genre essay
subcorpus Academic Essay


 1イネ による 無機窒素 の 同化 と 代謝反応 の 分子基盤
 2山谷知行
 3はじめ に
 4飽食 の 時代 と いわ れ て から 久しく 、 街 に は 食料品 が あふれ て い ます 。
 5私 が 小学生 の 頃 の 給食 は 、 今 で は 想像 も でき ない まずい パン と 脱脂粉乳 だっ た こと を 思い浮かべる と 、 隔世 の 感 が あり ます 。
 6しかし 、 カロリー で 計算 し た 日本 の 食糧自給率 が 、 実は 四〇 % 足らず で ある という こと を ご存じ でし た でしょう か ?
 7いわゆる 先進国 と 呼ば れ て いる 国々 と 比較 する と 、 極端 に 低い 値 です 。
 8最近 の 、 地球規模 で の 環境変化 や 、 輸入農産物・食品 の 安全面 を 考える と 、 大変 心許ない 状況 に あり ます 。
 9生活 する 上 で 最も 重要 な 食料 の 生産 を 、 真剣 に 考え 直す 時期 に き て いる と 考え て い ます 。
 10一方 、 地球 全体 で 収穫 できる 穀物 で は 、 約五〇億 人 を 養う 程度 と 言わ れ て い ます 。
 11この 数字 は 一九八七 年 の 人口 と 同じ 位 で 、 すでに 食料 は 不足 し て い ます 。
 12植物 は 、 十七 種類 の 無機元素 を 駆使 し て 、 全て の 有機物 を 生合成 し ます 。
 13人 や 動物 の 生存 は 、 植物 が 作っ た 有機物 に 依存 し て いる と いっ て も 過言 で は あり ませ ん 。
 14この 中 で 、 植物 が 多量 に 必要 で 、 最も 不足 する の が 窒素 です 。
 15イネ の 研究 の 重要性 とは
 16イネ は 三 大 穀物 の 一 つ で あり 、 アジア地域 で 全体 の 九〇 % 以上 が 生産 さ れ て い ます 。
 17他 の コムギ や トウモロコシ に 比較 し て 、 お米 は 粉 に し なくて も 食べ られる 穀物 です 。
 18研究材料 として 見 た 場合 、 ゲノム ( 遺伝子 を 含む 全DNA の こと ) の サイズ が トウモロコシ の 六分の一 、 コムギ の 四〇分の一 と 小さく 、 二〇〇四 年 十二 月 に ゲノム の 塩基配列 は 完全解読 さ れ て い て 、 農学 や 生物学 において モデル生物 の 一 つ として 重要 な 位置 に あり ます 。
 19研究 に 必要 な 分子資材 や 突然変異体 の 整備 も 、 順次 進め られ て おり ます 。
 20大きな 利点 として 、 イネ の 染色体構造 は コムギ や トウモロコシ など 他 の イネ科作物 の 構造 と 似 て いる こと から 、 イネ で 得 られる 結果 が 他 の 作物 に 応用可能 で あり 、 波及効果 が 大きい 点 が 上げ られ ます 。
 21この よう な 利点 を 生かし 、 私ども の 研究室 で は 、 イネ を 用い て 、 生産性 や 品質 に 最も 影響 を もつ 窒素 の 同化反応 や 体内 で の 利用機構 の 研究 を 二〇 年 以上 継続 し て 来 まし た 。
 22とりわけ 、 生産性向上 や 環境負荷 を 少なく する 窒素利用効率 の 向上 に関する 分子機構 の 解明 に 取り組ん で き まし た 。
 23窒素利用 の 分子機構 について
 24( 1 ) 根 による 無機態窒素 の 吸収 と 同化 について
 25研究 を 開始 し た 当時 、 分子生理学 の 研究 は 、 動物 に 比較 し て はるか に 遅れ て い て 、 代謝経路 は ある 程度 わかっ て い た ものの 、 その 素反応 が どの 細胞 で なさ れ て いる の か さえ 、 わから ない 状況 でし た 。
 26特異抗体 を 用い た 組織染色 や 免疫電子顕微鏡 、 また 緑蛍光タンパク質 など を 用い て mRNA の 発現場所 と 時期 を 特定 し 、 器官 や 組織 を 構成 する 細胞 は 、 代謝機能 が 異なる こと を 見いだし まし た 。
 27水田 で 成育 する イネ は 、 水田土壌 が 還元状態 で ある こと から 最も 還元 が 進ん だ 無機態窒素 で ある アンモニウムイオン ( NH4+ ) を 主 な 窒素源 として 用い ます 。
 28NH4+ は 、 根 の NH4+輸送 に 関わる タンパク質 によって 吸収 さ れ 、 主 に 根 の 表層 の 細胞群 で グルタミン や グルタミン酸 という アミノ酸 に 同化 さ れ た のち 、 導管 を 通っ て 地上部 に 運ば れ ます 。
 29この 際 、 同化反応 に 関わる の が グルタミン合成酵素 ( GS ) と グルタミン酸合成酵素 ( GOGAT ) です 。
 30イネ に は 、 GS が 四 分子種 ( GS11 , GS12 , GS1,3 , GS2 ) 、 GOGAT が 三 分子種 ( NADH-GOGAT1 , NADH-GOGAT2 , Fd-GOGAT ) 存在 し て い ます 。
 31一方 で 、 NH4+ は 、 施肥由来 以外 に 、 タンパク質 や 核酸 の 異化反応 や 二次代謝経路 、 光呼吸経路 など 、 体内 で の 複数 の 代謝反応 によって も 生成 し ます 。
 32しかし 、 一般 に 体内 の NH4+濃度 は 極めて 低く 、 同化反応 が 迅速 かつ 効果的 に 進め られ て いる こと を 示し ます 。
 33根 で の NH4+同化 に は GS12 と NADH-GOGAT1 が 重要 な 働き を し て いる 結果 が 得 られ まし た 。
 34( 2 ) 窒素利用 は 、 収量 に 直接 影響 し ます 。
 35さて 、 イネ の 穂 や 種子 ( お米 ) を 形成 する ため に も 窒素 は 重要 な 働き を し ます が 、 穂 に 運ば れ て くる 窒素 の 約八〇 % は 、 若い 時期 に 葉 ( 葉身 と 葉鞘 ) や 茎 で 活躍 し て い た タンパク質 など が 分解 さ れ 、 篩管 を 介し て 輸送 さ れ て き た 窒素 に 由来 する こと が 、 安定同位体 の 窒素 で 標識 し た 研究 から 判明 し まし た 。
 36田んぼ を よく 見る と 、 下 の 葉 から 黄色 に なっ て いく こと が わかり ます 。
 37この 際 、 篩管液 の 主 な 窒素形態 は グルタミン と アスパラギン という アミノ酸 で ある こと が わかっ て い ます 。
 38アスパラギン は グルタミン から 生合成 さ れ ます ので 、 老化器官 で は 、 まず グルタミン の 合成 が 必要 と なり ます 。
 39また 穂 に 到達 し た グルタミン は 、 グルタミン酸 に 変換 さ れ た 後 に 、 多く の アミノ酸 が 合成 さ れ 、 貯蔵タンパク質 を 始め と する 重要 な 物質 の 素材 と なり ます 。
 40遺伝子発現 の 予備的 な 解析 から 、 老化器官 で は GS11 が 、 また 穂 で は NADH-GOGAT1 が 重要 で ある こと が 示唆 さ れ まし た ( 図 1 ) 。
 41図 1 ( A ) イネ葉身大維管束組織 の GS1タンパク質 の 免疫染色 。
 42褐色 が GS1タンパク質 の 存在 を 示し 、 伴細胞 や 木部 と 篩部 柔細胞 で 集積 し て いる こと を 示し ます 。
 43( B ) 登熟初期 の 穎果 における OsNADH-GOGAT1遺伝子 の 発現様式 。
 44青 の レポーター遺伝子 が この 遺伝子 が 背部大維管束 ・ 珠心突起 ・ 珠心表皮細胞 ・ アリューロン細胞 で 発現 し て いる こと を 示し ます 。
 45GS11 の 機能 を 証明 する ため に 、 OsGS11遺伝子 が 破壊 さ れ た 変異体 を 用い て 解析 を 行い まし た 。
 46この 遺伝子破壊変異体 は 、 成育 が 極めて 遅く 、 登熟 まで 一 ヶ月 以上 長く かかる とともに 、 背丈 が 半分 程度 、 また 小さな 穂 に ほとんど 中身 が 詰まっ て い ない 種子 を つける 表現型 ( 見た目 の 性質 ) を 示す こと が 判明 し まし た ( 図 2 ) 。
 47この 表現型 は 、 OsGS11遺伝子 を 変異体 に 再導入 する こと で 正常 に なる こと から 、 OsGS11遺伝子機能欠損 による もの で ある こと を 結論づける こと が でき まし た 。
 48図 2 OsGS11遺伝子破壊変異体 の 表現型 。
 49左 は 同じ 日数 育て た 栄養成長期 の イネ 、 右 は 完熟期 の 穂 。
 50WT は 正常 な イネ を 、 (-/-) は 遺伝子破壊変異体 です 。
 51窒素代謝 と 炭素代謝 は 、 密接 に 連携 を とっ て い ます 。
 52この 変異体 で 、 代謝物 が どのように 変化 する の か 、 代謝物 を 一斉 に 調べ た 結果 、 窒素代謝 と 有機酸代謝 に 関連 し た 物質 が 極端 に 低下 し 、 炭素代謝関連物質 が 増加 し て バランス が 大きく 崩壊 し て いる こと も 判明 し まし た 。
 53従って 、 GS11 は 、 生産性 を 決定 する 窒素転流機構 で 重要 な 機能 を し て いる こと が わかり まし た 。
 54窒素利用効率 の 向上 を 目指し て
 55古く から 、 経験的 に 窒素 の 供給 を 抑える と 、 根 の 伸長 が 促進 さ れる こと が わかっ て い ます ( 図 3 ) 。
 56NH4+ の 供給濃度 に 対応 し て 根 の 伸長 を 促進 する 原因遺伝子 を 、 量的形質 を 決定 する 遺伝子座 ( QTL ) を 利用 し た 解析 から 突き止め まし た 。
 57この 遺伝子 は 、 ある 種 の 転写活性化因子 を コード し て おり 、 根 の 伸長 と 同時 に NH4+吸収量 を 促進 する 効果 を 持つ こと が 判明 し まし た 。
 58日本型イネ で は 、 インド型イネ より も この 効果 が 小さい こと も わかり まし た 。
 59今後 、 この よう な 遺伝子 を 活用 し 、 環境負荷 が 少なく て すむ イネ の 開発 を 目指し て 、 研究 を 進め て いき たい と 思い ます 。
 60図 3 アンモニウムイオン濃度 を 変え て 、 栽培 さ れ た イネ の 幼植物 。
 61低濃度 で は 根 の 伸長 が 促進 さ れ ます 。
 62山谷知行 ( やまやともゆき )
 631950 年 生まれ
 64東北大学大学院農学研究科教授
 65専門 / 植物細胞生物学
 66関連ホームページ / http://www.agri.tohoku.ac.jp/cellbio/index-j.html